だが予想に反して、キッチンに居たのは契約者ではなくペリウィンクルだった。
 彼女は作業用の椅子の上に立ち、服を小麦粉で真っ白にしながら、オーブンの中をのぞき込んでいる。

「何をしている」

 ヴィアベルが声をかけると、ペリウィンクルは震え上がって椅子の上でしゃがみ込んだ。
 危うく椅子ごと倒れ込みそうになるのを、ヴィアベルはとっさに魔法で押しとどめる。

「危ないではないか」

「ごめんなさい……!」

「怒っているわけではない。私はただ、聞いただけだろう?」

 小さな椅子の上で丸まるペリウィンクルを見て、ヴィアベルは器用なことだと思った。
 いくら彼女が小さいといっても、そんなところで丸まっていたら危ないだろう。
 だって目の前にはオーブンがあって、下手をすればおとぎ話の魔女のように焼かれてしまうかもしれない。そうでなくとも、火傷をしそうなものである。