ダイニングで母の淹れてくれたミルクティを飲む。

ほんのり甘い香りが鼻に抜けた。まるで甘い砂糖菓子が溶け込んでるみたいな。

「この紅茶、何?」

「ああ、これね。昨年だったかしら、百貨店で世界の紅茶展やっててそこで買ったの。ウィーンの紅茶で『ハイランド トフィー』っていうらしいわ」

「ハイランド トフィー?初めてきく銘柄だな」

母は、キッチン棚の扉を開け、その紅茶の袋の裏を目を細めて確認している。

「なんかね、バターと糖蜜を使ったイギリスのトフィーっていう伝統菓子のフレーバーとチップを使ってるらしいわ」

「へぇ……」

職業柄、割と紅茶には詳しい方なんだけど初めて飲んだ。

なんだか魅惑的な味。一度知ってしまったら病みつきになっちゃいそうな紅茶だった。

「中毒性あるね、これ」

「そう?お母さんにはちょっと香りがきつくて。気にいったなら持って帰って」

「え?いいの?」

「ええ、もったいないし。賞味期限もあと三ヵ月くらいだからこちらも助かるわ」

「ありがと」

母が手渡してきた紅茶を受け取り、パッケージをまじまじと眺める。

いかにも高級そうな紅茶だと思いながら、得した気分になった。

悠はコーヒー好きだから、きっと飲むことはない。

普段なら絶対買わないだろう高級紅茶を三ヵ月、一人で贅沢に堪能しよう。大事にバッグの奥にしまった。

「それはそうと」

母が私の正面に座り、身を乗り出す。

はいはい、きたきた。

「お店も順調みたいだし、悠さんとはそろそろ籍を入れようっていう話にはならないの?」

「ならない」

母と距離を取るべく、紅茶カップを持ったまま椅子に深くもたれた。

「あなたはどう考えてるの?まさかもうこのままでいいとかあきらめちゃってるんじゃない?」

あきらめる?

あきらめる、なんて感覚とはまた違う。

結婚という体裁にこだわることが面倒になってきたっていうか。

悠だってそんな話しないのに、私からわざわざ持ち出すのもなぁって。

今のままで特に何も困らないもの。

「籍を入れるってそんなに大事なこと?」

母の目を見ずにカップを口につけながら言う。

「当たり前じゃない!」

背筋をピンを伸ばして、頭のてっぺんから甲高い声を出した母は私をまっすぐに見つめた。