「お母さん、どう?今日は智も一緒よ」

母はそう言いながら、閉じられた薄ピンク色のカーテンをゆっくりと開けた。

点滴に繋がれた祖母が薄眼を開け、こちらに視線を向ける。

腕にはいくつも点滴の跡が痛々しく残っていた。

「智ちゃんも来てくれたのかい?」

目尻にいっぱい皺を寄せ微笑む祖母は、私の方に手を伸ばす。

私はその手をしっかりと握りしめた。

柔らかくてすべすべした手。以前はもっとふっくらとして温かかったのに今はとても冷たい。

「おばあちゃん、久しぶりね」

「ああ、本当だよ。会いたかったよ」

祖母は何度も頷きながら私の目を優しく見つめる。

「智ちゃんは元気にしているのかい?お店は忙しい?」

「うん、忙しいかな」

「無理しちゃいけないよ。体が一番大事なんだから」

「ありがとう。でも、その言葉そのままおばあちゃんに返すわ」

私はそう言って笑った。

祖母もふふふと、口を窄めて笑う。

母は、テレビの下の棚から祖母の洗い物を入れ替えながら「ほんと、智は忙しすぎるんだから」とため息交じりに言った。

「智の花嫁姿、早くおばあちゃんにも見せたいのに」

まただ。

祖母の前でそれを言うのは反則だよ。

聞こえないふりをして、祖母の手の甲を軽くさすった。

「結婚が全てじゃないよ」

祖母は、私の目をじっと見つめ私にだけ聞こえるような声で言う。

「今何って?」

母が怪訝な表情で私たち二人の間に顔を近づける。

「秘密だよね?」

私と祖母は顔を見合わせて笑った。

穏やかな時間。

窓の向こうには青空が広がり、新緑が揺れていた。

やっぱり祖母は私にとって一番の理解者。

いつまでもそばにいてほしい存在。

「早く元気になってね」

祖母の額にかかった前髪をそっとかき上げた。