「店はどうなの?こないだ雑誌に紹介されたみたいだけど」

母が珍しく店のことを尋ねる。

「忙しいわ。サラリーマン以外のお客さんも増えてね。でも二人で切り盛りするのもそろそろ限界かも」

「アルバイトでも雇うの?」

「そうだね」

「アルバイトの給料は払えるの?」

母は露骨に眉をひそめて私に視線を向けた。

「払えるよ。結構儲かってるんだから」

「へぇ……、そうなんだ」

へぇ……の間に、『それなのに籍は入れないの?』っていう言葉が聞こえたような気がしたけれど、黙っていた。

「そろそろ着くよ」

微妙な沈黙を絶妙な間で破る父の声。

病院の入り口に車を停車すると、母と私が先に降りた。

日曜の病院は当然ながら静かで人もほとんどいない。

裏口から院内に入り、祖母が入院している五階までエレベーターで上がる。

四人部屋の一番奥の窓際に祖母のベッドがあった。