彼はいつも優しい。

その言葉が本音かどうかまではわからないけれど、私を怒らせるようなことは一度も言ったことがない。

逆に、彼がいつも本音を隠しているんじゃないかって、全ての言葉に不信感を持ってた時期もあったけど、今はそれも気にならなくなっていた。

これって成長っていうのかな。もしくは信頼関係?

駅までは老舗の店が軒を連ねる商店街が続き、踏切を渡る。

いつも開かずの踏切は、今日はすんなり通してくれた。

電車の窓の外に流れていく緑は青々としていて、こちらに「見て」と言わんばかりに手を振っている。

……おばあちゃん、大丈夫かな。

胸騒ぎってこういうのを言うのかもしれない。

理由もないのに、胸がざわつく感じ。最近、時々そんな風になる。

【今おばあちゃんのところに向かってる】

なんとなく一人で向かうことに不安が募り母にLINEを送ってみた。

すぐに返信。

【お母さんたちも今から行くところ。一緒に車で行こう。うちの駅に寄って】

母からの返信にホッとする。

病院より五つ手前の最寄り駅の改札を通り抜けた先にある駅前ロータリーに、既に父と母が車で迎えに来てくれていた。

「智~、久しぶりね。元気だった?」

「久しぶりって一ヵ月前に会ったよ」

「一ヵ月はお母さんには長いわ。おばあちゃんにはもっとね……さ、乗って」

ふぅっと短くため息をついた母は私の肩に手を置いた。

心なしか母の頬が少しこけたように見える。

入院している祖母のところに通っているせいなのかな。

「おばあちゃんはどう?」

「昨日LINEした通り。食がすっかり細くなってね。痩せていく一方よ」

前を向いて運転をしていた父がようやく口を開く。

「悠くんは元気かい?しばらく会ってないけど」

いつも父だけが悠のことを気にかけてくれていた。

「ああ、うん。元気だけど、休日はぐったり寝てるわ。今日も来たかったみたいだけど、疲れてそうだから敢えてお留守番をお願いした」

「そうか」

父はそれだけ言うと、黙った。