突然現れた私に驚いた表情で視線を向けた悠は、私の背後に立っていた母に気付き更に目を見開く。

「智……お義母さん。ご無沙汰しています。すみません、こんな格好で」

「いいのよ。大丈夫?」

母はさすがに優しい声で悠を労わった。

「びっくりしたのよ。警察から電話があって、トラックとぶつかっただなんて聞いて」

私も彼の腕をぎゅっと握りしめ、煮詰まっていた不安と一緒に言葉があふれ出す。

悠は、困ったような表情を浮かべ苦笑すると、点滴がつながれていない方の右手で私の頭を優しく撫でた。

彼の手を握りしめる私の手はまだ少し震えている。

「ほんと、びっくりだったよ。心配かけてごめん。まぁ、あと少し検査は残ってるけど今のところこんな感じで命に別状はないみたいだから」

「ほんと、よかった。足は骨折なの?」

そう言いながら、包帯でぐるぐる巻きに固定されている彼の左足に目をやった。

彼も足に視線を向け、深いため息をついた。

「命に別状はないけど、この足が結構やっかいでさ。複雑骨折で明日手術。全治三ヵ月だってさ」

「全治三ヵ月?」

ホッとしたのもつかの間、一気に『全治三ヵ月』という言葉が私の肩に重たくのしかかる。

命こそ大事だってわかっているのに、そんなことどうだっていいはずなのに、その三ヵ月もの間お店はどうするのさ?っていう現実がニヤニヤにくたらしい笑みを浮かべながら私に顔を近づけてきた。

明日はとりあえず、店は休みにしなければならない。

だって、私ひとりじゃどうしようもないもの。デザートとお茶を出してカフェ形式でやるっていう手もあるけど。

「智」

悠の手を握りしめていたはずなのに、いつの間にか私の手が悠の手に包まれていた。

「申し訳ないけれど、すぐに業者に電話して明日から三ヵ月店は休むと連絡してくれる?」

そうだよね。

やっぱりそうなるよね。

「あと、お得意先と、この三ヵ月予約下さっているお客様にも」

「うん、わかった」

二人の会話を母は心配そうに見つめていた。