隼人さんが私を連れてきたのは都内のスポーツクラブ。
大きなビルの5階から10階のフロアを使いジムやプール、サウナやスタジオまでそろう場所だった。

「すごく高そう」

思わず出てしまった言葉に、隼人さんは笑っている。
だってここ、立地から言っても整った施設や置かれている備品一つとっても高級会員制クラブにしか見えない。

「隼人さんはここの会員なの?」
どうしても気になってしまい口にした。

隼人さんが貧乏だと思っているわけではない。
一条プリンスホテルの課長職ならそこそこの給料だってもらっていることだろう。
それでも、ここは一介のサラリーマンが来る場所には見えなかった。

「知り合いの伝手で時々来るんだよ。別に俺がここの会員だってわけではない」
「そう」
よかった。

隼人さんがどこかの隠れ御曹司だったんだなんて告白をされたら、私は逃げ出していた。
私は金持ちだってことを鼻にかけ上流階級ぶっているような人間が大嫌いだ。
はたから見れば自分のことを棚に上げてって言われそうだけれど、私は好き好んで今ここにいるのではないと常に思っている。
出来ることなら平凡につつましく暮らしていきたい。