「口の悪い家系なんてどこにあるんだ。要はお前の性格がひん曲がっているだけだろう」
いつもならさらっと聞き流してくれるはずのお兄ちゃんも、珍しく向かって来る。

「そうですよ、高井さん社長に向かって失礼ですよ」
「はあ?」

何とかこの場を収めたいのか、このチャンスに私を貶めたいのか、諭すように放たれた川村唯の言葉がさらに私をヒートアップさせる。

「大体、あなたが仕事をしないから私がフォローしているんでしょ?この資料だって、前任の望愛さんは自分で作っていたわ」
「先輩、ヒドイ・・・」
女の私から見れば完全にウソ泣きとわかる涙をためて顔を覆ってしまった川村唯は、その場に泣き崩れた。

「自分の不機嫌を人にあたるなんて最低だぞ」
きゅっと唇を結び、険しい表情になったお兄ちゃんが私を睨む。

川村唯のようにかわいらしく男を建てて、何もできない女の振りをする人間はいつも得をする。
もちろんそんな女に騙される男が一番バカだろうと思うけれど、私のように声が大きくて、自分の意見を言う女は嫌われ損ばかりする。

「もういいです。仕事をしないけれどかわいい秘書と仲良くやってください」
これ以上ここにいたくないと感じた私はお兄ちゃんに背中を向けた。
しかし、
「おい、いい加減にしろ」
それは完全に怒鳴り声。

私はお兄ちゃんを怒らせてしまった。