秘書課に勤務するようになってから、私も何度か専属秘書の話をもらった。
もちろんやりがいのある仕事だろうとも思う。
でも、おじさまやお兄ちゃんの側に付くことにはどうしても抵抗があり辞退し続けている。
川村唯のことだってあんまり文句を言えば、じゃあお前が付けばいいと言われかねない。
私はそれが一番や嫌なのだ。

「高井さん、あんまり後輩を虐めたらダメよ」
「え?」
秘書室で一番長く務める明子先輩に声をかけられ顔を上げた。

「あなたがデータを渡してくれないから仕事ができないって、川村さんが泣きついてきたのよ」
「そんな、嘘ですよ」
「わかっているわ。でも、後輩からすると少し近づきがたい雰囲気があって声がかけられないのかもしれないわね」
「そんな・・・」

明子先輩に向かって、「それは間違いです」と大声で言いたい。
川村唯の本性を暴露してやりたい。でも、自分の身バレが怖くてできない。
もし私が一条の娘だとみんなに知れたら、このままここにはいられないだろう。
望愛さんじゃないけれど、周囲からの視線を気にしてビクビク生きなくてはならなくなる。それだけは避けたい。