年の功というのだろうか、穏やかな語り口で話すおじいさんに誘発され、私はお見合いのためにここに来たことを話してしまった。

「お嬢さんはそのお見合いが嫌なのかい?」
「嫌というか、他に好きな人がいるんです。もう会うこともないんですが、私はその人のことが好きなので」
「そうか、それは困ったなあ」

これも、全て自分の責任。
両親には申し訳ないけれど、今は逃げ出すしか方法がない。

「それでもお見合いだけしてみたらどうじゃ。案外良い奴かもしれんぞ」
「良い人なら余計に申し訳ないじゃないですか」
「それはそうかもしれんが・・・」
おじいさんの困った顔。

その時、
「おじいさん」
私の後方、ホテルから庭への出入口のあたりから男性の声がした。

「おっ、見つかってしまったか」
おじいさんがぺろりと舌を出す。

「もうすぐ時間ですよ、一体何をしているんですか」
若干キレ気味で近づいてくる声。

えっ・・・嘘。
私は振り返り、近づいてくる人を見て固まった。