「お嬢さんどうした、目に何か入ったのか？」

立ち止まり目頭を押さえていた私に、木の陰から老人が駆け出してきた。

「えっ」

見ると老人の手には剪定鋏があり、どうやら木の枝を切っていたようだ。

「いや、この木の枝がどうしても気になって鋏を借りて切っていたところなんじゃ。もしかして、切った枝がお嬢さんの方へでも飛んだのかと思ったんじゃが」
「いいえ、違います」

心配させて申し訳ないと首を振ったが、老人はまだ私の方を見ている。
年齢は70歳くらいだろうか、白髪で一条のおじいさまより小柄の優しそうなおじいさん。
着ているものは白いワイシャツにスラックスと、庭で作業する従業員には見えない。
どちらかというとお客さんが紛れ込んだ感じだ。

「もしかして、逃げ出してきたのかい？」
「え、どうしてそれを・・・」