俺の母さんである谷口百合子は代々続く政治家近藤家の一人娘で、将来は養子を迎えてじいさんの地盤を継ぐのだと大切に育てられた。
しかし、大学を卒業して社会勉強のつもりで就職した商社で父さんと出会い、俺を妊娠。
もちろんじいさんは結婚に大反対で、母さんは勘当され家を出て父さんと結婚した。
その後、父さんは俺が小学校に上がる前に病死し、母さんは一人で俺を育ててくれた。
一人っ子で母子家庭の寂しさはあったが、父さんが残してくれた保険金と母さんがパートで働くお金で大きな苦労はなく育ててもらったと思う。
じいさんもばあさんも家を飛び出し絶縁状態になった娘を気にしながらも遠くから見守ることしかできなかったらしいし、母さんも年老いていく両親を気にかけながら自分から近藤家の敷居をまたぐ勇気がなかったようだ。
結局、お互いに引っ込みがつかず今まで来てしまったってことなのだろう。

「来月、百合子は家に戻ってくるそうだ」
「ええ、僕もそう聞きました」
「お前はどうするんだ?」
「僕は・・・」

長い間連絡をとることもなかった親子の仲が回復したのは、今年の冬にじいさんが転んでケガをしたことがきっかけだった。
いくら元気に見えてももうすぐ80歳。
幸い骨に異常は見られずすぐに日常生活に戻ったが、この時から母は実家に通うようになった。
そこから親子の仲はあっという間に回復し、この秋から母が実家に戻ってじいさんたちと同居することになったのだ。