「このきんぴら、美味いだろう?」
「ええ」

高級料亭らしく小皿にちょこんと乗ったものではなく、大き目の鉢にどんと乗せられたゴボウのきんぴら。
それは普通に想像するきんぴらとは違って、太さも不揃いで長さもバラバラ、よく見ればきちんと長方形の形をしたものは一つもない。
でも、俺はこのきんぴらが好きだ。

「百合子の作るきんぴらに似ているだろ?」
「ええ、そっくりです」

百合子というのは俺の母さん。このきんぴらはが母さんが作るものと全く同じなのだ。
ゴボウを切る前に叩くから不揃いな形になるらしい。
ただ、こうすることで味が染みてゴボウはうまくなる。
だから、俺はこのきんぴらが好きだ。

「その昔、この店のきんぴらを食べてから百合子はこの味をまねするようになったんだぞ」
「そうだったんですか」
だから、この店のきんぴらは母さんと同じ味がするのか。

「今日は先生のお好きな肉じゃがとサバの塩焼きですが・・・」

それでいいですかと、着物を着た女将が俺に聞いている。
きっと、年齢的に若い俺に好みを聞いているのだろう。

「大丈夫です。十分ですから」
「そうですか、では準備いたしますね」

こんなに高そうな店で食べる家庭料理にも最近は慣れてきた。
きっと値段は張るのだろうなとは思うが、ここで食べる夕食は嫌いじゃない。