「ところで、桃に縁談の話があるらしいんだが?」
じろりと俺を見る創介の視線が何か言いたげだ。

「ふーん」
何か含みがあると感じながらも、俺は気づかないふりをする。

桃と俺の関係を創介も知らない。
もちろん大学時代からの友人として長く付き合って来た創介は、俺の出自についてもおおよそのことは知っている。
今回突然の退職についての事情も、大体は話してもある。

「これは、お前の意志なのか?」
創介の強くて真っすぐな視線が、俺を射抜いている。

「ああ、そうだ」
俺だって今更逃げるつもりは無い。

「わかった、お前に覚悟があるのならもう何も言わない。ただし、あいつを傷つければたとえ隼人でも許さない。いいな?」
「ああ、わかっている」

彼女がどれだけの人に愛されているのか、俺は知っている。
運命という名の重たい十字架を背負ってきたからこそ、誰よりも幸せにならないといけない人間だとも思っている。

「任せていいんだな?」
「ああ」

俺は高井桃という25歳の女に惚れた。ただそれだけだ。
これから先どんなことがあっても、彼女を手放す気はない。