やがてコンサートホールに到着し、バレーパーキングのスタッフがドアを開けると、車から降りた瑛と菊川がそれぞれ聖美と朱里に手を差し伸べる。

そのまま2組で腕を組みながらエントランスに入った。

「菊川さん、はい!プログラム」
「あ、ありがとうございます」
「楽しみねえ。あ、ほら!この曲、私大好きなのー」

そう言って朱里は、菊川の顔を下から覗き込んで笑いかける。

菊川はギョッとしたように身を引いた。

朱里はグイッと菊川の腕を引き寄せて、小声で囁く。

「菊川さん。今夜もラブラブ作戦でお願いします」
「え?あ、はい」

背後の瑛と聖美の様子をチラリと振り返ってから、菊川は仕方なく頷いた。

「わー、カップルがたくさん!今日はバレンタインデーですものね。皆さんドレスアップしてて素敵!でも私の菊川さんが一番かっこいい♡」
「え、本当ですか?」

朱里は菊川の肩に手を置いて背伸びすると、耳元に口を寄せて呟く。

「嘘です。ごめんなさい」
「…は?」

目が点になる菊川をよそに、ロビーに桐生ホールディングスが贈った大きな花を見つけた朱里は、さりげなく花のそばに菊川を立たせた。

「菊川さん、写真撮りますよ。はい、笑ってー。あ、今度は二人で自撮りしましょ!」

菊川に顔を寄せ、嬉しそうにはしゃぐ朱里を、瑛と聖美は気恥ずかしくなりながら見守っていた。

「あの…、瑛さん」
「はい、何でしょう?」
「これ…よろしければどうぞ」

そう言って、聖美は小さな箱を瑛に差し出す。

え?と瑛は立ち止まった。

「バレンタインデーですので、私からもチョコを…」
「あ、ありがとうございます」

きっと受け取りやすいように考えてくれたのだろう、その小箱はジャケットの内ポケットに入る大きさだった。

「お口に合うとよろしいのですけど」
「いえ、お気持ちだけでも充分嬉しいです。では参りましょう」

瑛は、はにかんだ笑みでうつむく聖美をホールへと促した。