「これはあくまで推論ですが……」

 先生は俺から言質を取ったにも関わらず、さらに保険をかけた言い方で話し始めた。

「様々な患者を診察してきた経験から、多くあるケースとしての話をしましょう。

愛着形成が困難な家庭環境で育ってきた子どもは、どんなに理不尽な目にあっても、拒否することができません。

いくら周囲が離れた方がいいと説得しても、戻ってしまうケースがよくあります。

本人も大人になり、親はおかしいと理解し始めても、どうしても捨てることができないのです。

子どもを捨てる親はいますが、大多数の親は子どもを捨てられないでしょう。

それと同じように、子どもも親を捨てられないのです」

「それは、血の繋がっていない親子でもいえることですか?」

 高城が真剣な面持ちで問う。

「もちろん、そういうケースもありますが、少数派です。多くは肉親に寄ります。

血は水よりも濃いとはよく言ったもので、理性が本能に抗うことはなかなか難しいことのようです」

「つまり、トリガーは父親ということか?」

 俺の問いに先生は静かに頷いた。