「トリガーとは、物事を引き起こすきっかけです。

人によっては、場所や人物、匂いなど、トリガーとなりうる要素は様々です。

彼女の行動は、突発的で不可解です。

そのような行動を取るときは、過去のトラウマなどのトリガーが影響することがあります」

 過去のトラウマ。

捺美の家庭環境は複雑だった。

家庭というのは閉ざされた空間で、そこでなにが起こっていたのかは外部の人間にはわからない。

「離婚届は書いたけれども、辞職願や休職願は出していない。

ここに、捺美さんの葛藤が見て取れます。

または、離婚は強く勧められたけれど、会社を辞めることは勧められていないというケースも考えられます」

 先生の見解に、高城が嬉々として口を挟んできた。

「それは考えられますね。捺美さんのご家族は、捺美さんの収入もあてにしてきた経緯があります。離婚は絶対にさせたいけれど、大企業の収入は捨てきれない。捺美さんというよりも、義母や義娘の葛藤が感じられます」

 捺美の字で書かれた離婚届を見たとき、人生が終わったくらいの衝撃を受けた。思い出すだけで胸が痛む。

「義娘との接触が直接の原因ではないとすると、いったい捺美になにが起きたんだ?」