「先生にはおおかたの情報を渡してあります。捺美さんの家族経歴や、友人関係、結婚の経緯なども伝えました。社長の了承も得ずに申し訳ありません。早い方がいいと思いまして」

「大丈夫だ、問題ない。ありがとう」

 俺も知りたかった。捺美の気持ちが。

現在の捺美の考えを理解せずに無理やり実家から引き離そうとしても逆にこじれるような気もしていた。

 おそらく、俺が想像するよりも、捺美と実家の関係は根深い。

 先生は、俺が聞く体制に入ったのを確認し、静かに口を開いた。

「資料は読ませていただきました。捺美さんは、いわゆるヤングケアラーだったようですね」

 ヤングケアラー。「本来は大人がやるべき家事や家族の世話(ケア)を日常的に行っている一八歳未満の子ども」のことを指す。

「十八歳~三十歳代になると「若者ケアラー」と呼ぶこともあるのですが、捺美さんの場合は十代から継続的に家族のケアを行っていたので、厳密な専門用語ではなく一般の方にも普及しているヤングケアラーと呼ばせてください」

 先生の説明に、俺は静かに頷いた。

正直呼称はどちらでもいい。

専門家はやたら用語を詳しく使いたがるが、重要なのはそこではない。