「そんなのおかしいじゃない。あなたたちが運命を狂わせたから忍びの里は滅んだ。戻った時、すでに里は滅んで……うっ──!!」
口から血が吐き出される。
人を呪う術は反動も大きい。
ぜえぜえと呼吸を乱し、咲千代は赤黒さに目まいを覚えた。
咲千代もまた、縛られる一人であると察した葉緩は葵斗の肩を押し立ち上がる。
小走りで咲千代の前まで駆け寄ると、帯の中から親指サイズの小瓶を取り出す。
「これを」
手のひらに黒い丸薬を転がし、咲千代の前にしゃがみこむと差し出した。
「私が独自に作った薬です。術の跳ね返りによるダメージも回復します」
「そ、んな得体の知れないもの……」
「いいから飲む! さっさと回復してくれないと葵斗くんが困るんです!」
「むぐっ!? ……んぐ」
口を開かれ、無理やり放り込む。
力づくで押さえつけ、咲千代は成すすべもなく丸薬を飲み込んだ。
あれほど怠く重かった身体が解放されていく。
血は止まり、次第に呼吸も落ち着いていった。
そんな万能な薬を見たことのない咲千代は驚き、顔をあげる。
葉緩は苦しそうに眉を下げながら咲千代の長い髪を撫でた。
「あなたは葵斗くんの親族。……お身内で傷つけるのはやめてください」
葉緩の言葉に咲千代は深く長い息を吐く。
「偽善者」
「それでいいですよ。安心してください、私は優秀なので」
「……こんな女のどこがよかったのかしらね」
嫌味にも動じないニコニコした葉緩にすっかり咲千代は毒気を抜かれていた。
そんな中、少しずつざわついた声が近づいてくる気配を察する。
耳を傾けると多くの生徒たちの足音と雑談が聞こえてきた。