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波の音が聞こえた。
押し寄せるあたたかい想い。
これはずっと愛おしいと思い続けた青の音だ。
「海の色……」
「……葉緩?」
目を開き、心が向かうままに言の葉を紡ぐ。
「花よ、舞え。我が想い、蒼き海の如し」
これは、葉名が編み出し、葉緩が完成させた忍ばぬ心。
「花想蒼心(かそうそうしん)!!」
青い花が開いていき、中から藤の光が現れる。
あたりをやさしい光で包み込み、緩やかに心に溶け込んでいく。
葉が緩く青に輝き、生命が息吹いた。
「は……ゆる……」
目を見開く葵斗に顔を向け、葉緩は満面の笑みを浮かべた。
「ただいまです! 葵斗くん!」
「――っ葉緩! よかった、葉緩!」
「わわっ!?」
飛びつくように抱きついてきた葵斗に葉緩は押しつぶされそうになるも、ほっこりとした気持ちで抱きしめ返す。
黒髪が頬をくすぐると、鼻をくんくんとさせてみた。
「うーん、やっぱり匂いはわからないままですねぇ」
葉名として生きた記憶を取り戻したことで、葵斗がやたらと番の匂いというものがわかるかと思った。
しかしいざ嗅いでみても匂いはまったくわからない。
やはり連理の枝を手折ってしまっているので、運命は繋がっていないということなのかもしれない。
「まぁどうでもいいです! 嬉しいのは葵斗くんがずっと私を想い続けてくれたということです!」
すっかり楽観的になった葉緩は悲観せず、葵斗が葉緩を抱きしめてくることに喜びを噛みしめる。
葵斗は間抜けた顔をし、葉緩の頬に触れた。
「俺のこと、覚えてるの?」
「はい。ずいぶんとゆる~くなられましたね」
葵斗の手に手を重ね、擦り寄る。
「私、怖かったみたいです。あなたを信じてたつもりでした。たくさん悲しいことが起きて。でも主様と姫に救われて。……これ以上、失うことが嫌だったんです。ずっと、あなたは私に伝えてくれてたのに」
「いい。また会えた、それだけで幸せだ」
それは、葵斗であり蒼依の言葉。
不確かなのに刻まれる記憶を口に出せず、葉緩を前にしてもこの手に摑まえることは出来ない。
幻想なのか、現実なのか。
秘めた不安が涙となり、葉緩を強く抱きしめた。