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里の隅にある小さな古民家。
枝を確認した葉名は、帰りに山菜を積んでいた。
家の中に入ると山菜の入った布袋を板の上に置く。
「ただいま戻りました」
「ああん? なんだ、葉名か。飯は出来たか?」
古びた板の間に肘をついて寝転ぶ滋彦。
顔が赤く、何度もしゃっくりをしている。
小さなおちょこを手に葉名へと視線を移していた。
「父上、こんな時間からお酒を飲んでいてはまた里の者に何を言われるか……」
「うるせぇ! 養ってるのはオレだろうがっ!!文句言ってんじゃねえ!!」
「きゃあっ!?」
おちょこが投げられ、葉名の横を通過する。
壁に叩きつけられ、おちょこは真っ二つに割れていた。
身を守るように小さくなった葉名の帯から貝殻が落ちた。
こうして滋彦が苛立ちを葉名にぶつけるのはよくあること。
着物で隠れてはいるものの、時折葉名の身体にはあざが出来るようになっていた。
「まったく、トロい女だ。くノ一ならばこれくらい避けて当然だ」
――ズキン、ズキン。
こうして葉名は侮辱の言葉を何度も受けている。
幼い頃より言われていたため、刷り込まれたように葉名も自身をそう思っていた。
ビクビクと何も言えず俯くばかりの葉名に滋彦はため息をつく。
「所詮、良家と繋げるために拾ったようなもの。枝さえ結び付けば……おっ?」
地面に落ちた貝殻を見て滋彦は目を丸くする。
開いた中身を見て、ニヤッと口角をあげた。
「なんだぁ、ずいぶんと高い塗り薬だなぁ。まさか“あの坊ちゃん”にもらったのか?」
“あの坊ちゃん”とは蒼依のことである。
里の長の長子ということもあり、滋彦は特定するワードのような扱いで蒼依を裏でそう呼んでいた。
ニヤニヤと赤くなりながら滋彦は身体を起こす。
「お前もやるなぁ。よくお前に絡んでくるもんなぁ。くノ一としてそちらの才能はあるようだ」
「父上、私は……」
とっさに蒼依を巻き込みたくない、と防衛反応が滋彦に抵抗を示す。
だが威圧感のある滋彦の目つきに葉名は言葉を奥に引っ込めた。
「必ず蒼依をものにしろ。ムカつくが長の息子だ。そうだな、蒼依がダメならば弟でも構わん」
おちょこが割れてしまったため、徳利に入った酒をそのまま喉に通す。
「いいか、必ずだぞ!?」
「……はい」
――あぁ、腹が立つ。
蒼依の代わりになる者はいないというのに、軽く扱われると苛立ちがつのる。
(なのに私は反論が出来ない)