「私も今年は枝が伸びず。来年まで答えは待つこととなりました」
「そうか、良い縁があるといいな」
蒼依の返答に穂高はふっと余裕めいた微笑みを浮かべた。
「順当ならば蒼依様と夫婦になることでしょう。互いの血統を守るために、木が正しい実りを見せてくれることが楽しみです」
その言葉に葉名の胸が痛む。
ズキズキと痛む胸に手をあて、葉名は何も言えずに俯いた。
ふと腕に青あざが出来ていることに気付く。
さっとそれを隠すように着物の袖を伸ばした。
「それではまた」
去っていく穂高を見送り、葉名は袖を握りしめる。
一度も穂高は葉名を見なかった。
(仕方のないこと、この里で我が家の立ち位置は低い)
途絶えるはずだった落ちぶれた忍びの家と、代々と連理の枝に導かれ、繋いできた家系。
拾われただけの葉名が並ぶことさえおこがましい。
蒼依もまた、葉名が隣に立てる相手ではなかった。
(あぁ、どうして私はこうも悲観的なのか)
葉名を縛り付ける暗い考えが行動を制限していた。
もやもやを振り払い、葉名はにっこりと笑顔をはりつける。
「私も戻りますね」
「待って──!!」
去ろうとする葉名の手を取り、蒼依は帯から貝殻を取り出す。
それは稀少な塗り薬であった。
葉名の手のひらに乗せ、両手で包み込んだ。
「これ、傷口に塗って」
「……こんな高価な薬、受け取れません」
「お願い。これは俺のわがままだから……」
(……ずるい人。こうしてあなたは私を振り回すのですね)
その手を振り払えないのもまた、浅ましい。
まるで蛇のような女だと思えた。