だが拾った男が言うには血の繋がりがあるそうだ。
妻となった女とはすぐに死に別れ、血が途絶えようとしたときに葉名を拾った。
忍びの血脈を繋ぐため、連理の枝があった葉名は確実に子孫をのこせる娘だった。
そうしてくノ一へと仕立てようと育てられた。
だが気弱な性格、不器用さゆえになかなか忍びの技術を習得するのに苦戦した。
親となった男からは暴力をふるわれ、里ではくノ一の恥とされていた。
「俺と葉名、同じ木に枝がある。もしかしたらそういうこともありえるかもしれん」
葉名に対等に接してくれる唯一の存在が蒼依であった。
やさしい蒼依に葉名は心惹かれていたが、不相応であると俯いてしまうことが多かった。
「葉名はいったいどんな匂いなのだろうな」
葉名の黒髪を一房手に取り、匂いを嗅ぐ。
気恥ずかしくなり、葉名は固く目を瞑り、頬を赤らめた。
「恥ずかしいよ。 蒼依くんと……なんて、おこがましいから」
「葉名、俺は――!」
「葉名、帰りが遅いと思えば何を道草しておる」
二人の会話に割り込んできたのはくたびれた着物姿の男・滋彦(しげひこ)だった。
昼間だというのに顔が赤く、酒の匂いがした。
葉名はパッと蒼依から離れ、焦りだす。
「ご、ごめんなさい……」
わずかに怯え、震える葉名に気付いた蒼依は葉名の前に立つ。
堂々とした様子で滋彦に向き合っていた。
「滋彦殿、俺が葉名を引き止めたのだ。責めるなら俺も一緒にお願い出来ないか?」
じろりと蒼依を見下ろした後、滋彦は軽いしゃっくりをしヘラヘラと笑う。
「蒼依くんかぁ。そうか、葉名が世話になったようで感謝する。さぁ、帰るぞ、葉名」
「あ……。ま、またね、蒼依くん」
滋彦に手を引かれ、葉名はおぼつかない足取りで追いかけていく。
その後ろ姿が見えなくなるまで、蒼依はじっと見つめていたのであった。