壁にたたきつけられ、咲千代はダメージを受け身体を震わせる。
動くことが叶わなかった。
葉緩は腰に両手をあて、鼻を鳴らす。
「こう見えて私、優秀なので!」
「葉緩カッコいい、もっと好きになった」
「あわわわわっ! 葵斗くん、離してください!」
「やーだ」
修行の成果を出すことが出来、誇らしげに笑う葉緩に葵斗は頬を染め、飛びつくように抱きしめてくる。
葉緩の首筋に擦り寄ってくる葵斗に葉緩は慌てて手足をばたつかせるも、葵斗の腕からは逃れられない。
(ほんと、自由な方です)
ドキドキする胸の高鳴りはもう見て見ぬ振りができない。
ため息をつき、葉緩は倒れた咲千代へと向ける。
(結構、強めにやってしまいました……大丈夫でしょうか?)
「忍法……【心象風景(しんしょうふうけい)】」
弱々しくもありながら、怒りを込め咲千代は声を出す。
「禁術混合【誹刺諷誡(ひしふうかい)】!!」
誹刺諷誡(ひしふうかい)、それは人を批判し間接的に戒めるということ。
心象風景(しんしょうふうけい)、心の中で思い浮かぶ風景をさす。
これを混ぜると、人の内側にあるネガティブな感情に作用を働かせる。
黒い風が葉緩に直撃し、体内に入り込んでいった。
「葉緩っ!!!?」
葉緩の身体から力が抜け、瞳から光が消えていく。
葵斗がその身体を支えるも、すでに葉緩は意識が技に飲み込まれていた。
「葉緩、葉緩!! ……咲千代! 葉緩に何をした!?」
「別に、彼女の中に戒めるべきことがなければなんの問題もない術よ」
血を吐きながら咲千代はニタリと笑う。
この術は使ったものにも反動のあるもので、咲千代は口から血を流し、ぜえぜえと息を切らしていた。
「でも眠りに落ちたってことは……罪の意識があるのね」
「罪の意識?」
「葵斗、その女は裏切りの子孫。あなたは正当な望月家の忍。あるべき番と結ばれなさい。その女は相応しくないのだから」
「……なら俺もふさわしくないよ」
「……っ!? 葵斗?」
葉緩の身体を抱きしめ、葵斗は低い声で闇を見せる。
「俺もまた、裏切り者だから」
「どういうこと?」
どこまでも深く沈んでいく。
青さを失った深海へと、溺れていった。