「葉緩を傷つけるなら咲千代も敵。戦うよ?」
「くっ……抜忍を見逃してるのよ!? これ以上、うちには関わらせない!」
小さく忍術の呪文を唱え、風を打ち付けてくる。
教室の机が倒れていき、激しく音を立てた。
まったく動じない葵斗が構えをとり、攻撃態勢に移る。
一瞬にして制服から忍びへの装束を変えた。
「三尺秋水(さんじゃくしゅうすい)!」
冷たく澄んだ秋の水が剣の形となり、斬りつけるように咲千代へと襲い掛かる。
鋭い冴えわたった水の動きが咲千代を押していく。
その繊細で強い威力を見せつける技に葉緩は葵斗が優れた忍びということを理解する。
長年努力してきた葉緩でもたどり着けない水の攻撃の極みだ。
忍びとして魂の主を守ることに未来をみてきた。
それが葉緩の生きる理由だと信じてきた。
ようやく桐哉に出会い、柚姫へと繋がって守りたいという意志は確固となった。
だがいざ、葵斗の優秀さを目の当たりにし、葉緩は悔しさに唇を噛みしめる。
家族という枠組みでしか忍びを見たことがなかった。
外に出ればこんなにも高みにいる存在がいた。
葉緩の大切なもの、そして信念。
簡単には譲れない。
自覚させられるは、その信念の中にすでに葵斗も含まれているということだ。
ならば目の前で攻撃をされ、守られているだけが葉緩の生き方か?
――いや、ちがう。
葉緩が信じたものは、欲しいものは、自分で手を伸ばさなくては手に入るものではなかった。
目を閉じ、覚悟を決める。
制服を脱ぎ捨てて、葉緩は自分のための鎧、くノ一の装束を纏うのだった。
そして葵斗と咲千代の攻防へと飛び出し、藤の瞳に炎を灯す。
「……ものすごーくモヤモヤします。私も忍の末裔ですからね! 守るのもまた、私の務めです!」
「葉緩?」
ふんぞり返る葉緩に驚かされる葵斗。
藤の瞳に迷いはなかった。
「イチャイチャは推奨しても、別れさせるのは無粋というもの! 誰を好きになるかは私が決めます!」
忍びの務め。
その二、主の子孫繫栄に全力を尽くすこと。
葉緩独自の努めに追加し、その三!!
【イチャイチャ推奨! 愛のために欲を持て!】