「抜忍とか細かい事情は知りません! 文句はご先祖さまに言ってください!」
もやもやしていた理由が、苛立ちを口にしたことで少しだけ晴れる。
ようやく葉緩は自分の気持ちが向かうゴールを垣間見ることが出来、喜びと悔しさの入り混じった気持ちになった。
(結局、こういうことか)
風が吹き、葉緩の黒髪がさらさらとなびいた。
「私は、自分の相手は自分で見つけます。自分の番とか本っっっ当にどうでもいいです。番とは、主様と姫のための言葉。私は二人のための忍びであり、御守りする壁なのです」
「か、壁?」
「葵斗くんのことは忍とは関係ありません。なので、好きになったならばそれだけのこと」
藤に宿るは葉緩の信念。
たった一人を想うこと、それがもっとも尊いことである。
そこに敵も味方も関係ない。
葉緩が優先したいのは、応援したい人の恋路を見守ることであった。
葵斗が葉緩を好きだと言うのならば、向き合うだけのこと。
好意を邪険にするのは葉緩の信念に反することであった。
「私は私の思うがままに人を好きになりたいのです。だから葵斗くんを止めたいならば本人によろしくお伝えくださいませ」
警告を受けてどうするかは葵斗が決めること。
葵斗を好きになるかどうかもまた、葉緩が決めることだ。
咲千代のいいなりにはならない。
「それでは、夕飯が待っておりますゆえ失礼致しまする!」
「まっ──!?」
ーーシュタタタタタッ!
お得意の俊足で去っていく。
置き去りにされた咲千代は手のひらに爪をたて、鋭く葉緩の去った道を睨みつけていた。
「四ツ井 葉緩。運命を狂わせた女の子孫め」
――恋は動き出す。
手折った枝はどこへ行く?