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夕方になり、チャイムが鳴り響く。
ざわつきだした教室で葉緩は背伸びをした。
「テスト終わったー!」
達成感に意気揚々とする葉緩に桐哉が歩み寄り、声をかける。
「お疲れ様。赤点は免れそうか?」
「多分大丈夫です。 桐哉くんはどうでしたか?」
「オレもそこまで勉強得意ではないからなぁ」
あまり良い成果とはならなかったのだろう。
桐哉は苦笑いをして、返事をぼかしていた。
かと思えば意地悪く口角をあげて葉緩を見下ろす。
「数学は得意だけどね」
「……桐哉くんって結構意地悪ですよね。実は喧嘩っ早いですし」
「はは……忘れて」
中学生の時、桐哉は喧嘩っ早い性格をしていた。
荒くれものとして周りからやや引かれていた扱いだったのは、今では葉緩のみが知ること……。
「葉緩、パフェ食べに行こ?」
桐哉と話していると、そこに葵斗がニコニコとしながら現れる。
さて、このテストの時間、葵斗は教室にいただろうか?
怪しいと思いながらもここはあえてスルーすることに決め込む葉緩であった。
「では桐哉くんと姫も」
「二人で行って来なよ」
桐哉の言葉に葉緩は驚愕し、椅子を引きずる音を鳴らして立ち上がる。
「な、何故!?」
「葵斗は二人で行きたそうだし。友達の恋路は応援しないとな」
「……」
善意に満ちた桐哉に対し、葉緩は俯き、何も答えなかった。
様子のおかしい葉緩に桐哉は困った様子で葵斗を見る。
「……何したの?」
「別に何もない。行こ、葉緩」
ズルズルと葵斗に引きずられていく葉緩。
ぽやぽやしているように見えて肉食な葵斗を知る桐哉はあきれた気持ちで見送っていた。
葵斗はふらふらして女子を交わしている。
そのため目立って騒がれることはない。
しかしあれだけキレイな顔立ちに好意を向けられるのもまた苦労するだろうと、桐哉はやや葉緩への同情心を抱いていた。