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風を切るように体育館の中へと戻る。
「何事ですか!?」
「と、隣のクラスの女子たちが徳山さんに集中攻撃してて……」
出入口付近でオロオロとするクレアに問い、現状を確認する。
隣のクラスの女子複数人がバレーボールの練習でアタックを打つふりをして柚姫にボールをぶつけていた。
誰も止めることが出来ていない。
「ど、どうしよう。あの人ら怒らせると怖いんだよね。先生が見てないタイミングで攻撃してて」
陰湿な攻撃にクレアも心を痛めているようだ。
しかし集団攻撃に注意できるほど個々の抵抗力は強くない。
柚姫も唇を噛みしめて耐えているようだった。
「運動中の怪我って言ってるけど、あんなの怪我するに決まってるよ。もあの人たち……って、四ツ井さん?」
葉緩は拳を握りしめ、真っ直ぐに歩いていく。
柚姫を攻撃する女子たちを睨みつけながら、静かに怒りの炎を灯す。
(『堅忍不抜』我慢強く志しを変えない。だから私も主様への忠誠を第一としてきた。どんな厳しいことも我慢して耐えてきました)
それは確実に葉緩の自信へと変わっていた。
時には耐え抜き、忍ぶことも美徳としていた。
(私の志しは全て主様のため。だからこれは忠誠をなので志しに基づいてのもの)
カッと目を開き、床に転がっていたボールを拾うと上へと勢いよく投げつけた。
「だからって友達が傷つけられて我慢出来るか!!」
けれど今は耐える時ではない。
これは“正当防衛”である。
「我流忍法・一撃必殺アターック!!」
「「えっ――!?」」
――ドゴォッ!!!!
宙高く投げたボールを思い切り打ち付ける。
ようするにただのアタックなわけだが、その威力は強烈だ。
直撃した女子はなだれ込むように勢いに倒れていく。
「……葉緩ちゃん?」
驚いた柚姫が葉緩をじっと見つめる。
葉緩は柚姫を見るや否や飛びつくように駆けていった。
「姫ぇええ! 大丈夫ですかぁ!? 怪我は……やだ、鼻血が出てます!」
体操着のポケットからティッシュを取り出し、柚姫の鼻に押し付ける。
声をあげながら泣き出し、柚姫に抱きついた。
「ふええん、姫の愛らしいお顔がぁ……」
「な、なんでティッシュを」
「なんでもありますよ! いざと言うときのために準備万端です!」
どやっと鼻息を鳴らし、誇らしげに笑う。
(なーんて、大体は白夜に持たせてるけど)
自信に満ちた葉緩におかしくなり、柚姫はクスクスと笑い出す。
「ふふ、葉緩ちゃんらしいや。ありがとね」
「……はいっ!」
きっかけは桐哉の想い人だったからかもしれない。
だが今は柚姫を特別大切な友人だと思い、いとおしかった。
懐いた猫のように柚姫に擦り寄り、葉緩は満悦していた。