「……今の私、壁じゃありません」
「そうだね」
「どうしてこんなことを――」
「葉緩が好きだから。ずっとずっと……好きだった。やっと会えたんだ。離さない」
――ギュッと抱きしめられる。
ぶわっと涙がこみあげてきて、葉緩は固く目を閉じた。
(ダメ、思考がぐちゃぐちゃになる。頭が痛い。……なんで)
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脳裏に根の絡み合う一本の木が過る。
白い枝を、手折る。
そこで塗りつぶすように黒い線がすべてをかき消していった。
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「――葉緩っ!!」
葉緩を庇うように抱きあげると、葵斗はその場を高く飛ぶ。
いつものゆったりとした動きからは想像も出来ない素早いものだった。
着地し、元居た場所に目をやると一本の矢が地面に刺さっていた。
小さく折られた紙が矢に結びついている。
葉緩は葵斗から離れ、その矢を拾いに行く。
紙を開くと達筆な字で葉緩への警告文が記載されていた。
「“裏切り者が望月 葵斗に近づくな”。……裏切り者?」
「気にしないで。 俺が好きなのは葉緩だけだから」
「ご、誤魔化さないでください! 私があなたに何を裏切ったと」
心当たりのない警告に興奮し、葵斗を問い詰めようとする。
だがその疑問を解決する間もなく、次の出来事が訪れる。
――バンッと大きく床に叩きつけられる音が体育館から響いてきた。
「な、なんですか? すごい大きな音が……」
「……血の匂いがする」
「血……まさか!」
嗅ぎ取った匂いに覚えのある葉緩は血相を変え、体育館へと駆けていく。
手に持っていた矢は放り投げられていた。
葵斗は追いかけることなく、矢を拾う。
「この矢は……」
神秘の深い青色から光が消えていく。
代わりにゆらりと青い炎が灯っていた。