「……私にはわからない。あなたの匂いを感じないから」

「匂いを感じない? どうして?」

「わからない……」



葵斗が嗅ぐことが出来て、葉緩には出来ない。

問われてもそんなものわかるはずがなかった。


葉緩の回答に切羽詰まって葵斗は葉緩の腕を掴んだ。



「俺たちはわかるはずだ! だってこの匂いはっ……」


泣きそうな葉緩の顔を見て、葵斗はそれ以上言葉を続けられなかった。

歯がゆそうに唇を噛み、目をそらす。

腕を掴む手が震えていた。



「……わからないならいいよ」



ハッとして顔をあげると傷ついた表情の葵斗がいた。

葉緩は胸のあたりがズキズキと痛むのを感じる。


(これは何? 痛い……いやだ)



「匂いでわからないなら、他でわかってもらうから」

「えっ? ……あっ!?」


覆いかぶさるように唇を塞がれる。

何度も吸い付くように唇を食まれ、葉緩は葵斗の肩を押す。



「や、だめ……。ちょっ、は、ん……!!」



ぐちゃぐちゃする。


どうしてこんなことをするのか。


葵斗の瞳を見るとどうしてこうも心が乱される?


なのに触れられることが嫌でないと思う自分がわからない。



(だって、私は忍びだから。自分なんて、必要ない)


唇が離れると、葉緩は俯いて葵斗のシャツを握りしめる。

体育で動いたからなのか、緊張からなのか。

手が汗ばみ、全身が心臓の音でうるさかった。