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体育の授業でバレーボールが行われる。
隣のクラスとの合同授業である。
柚姫に飛んできたボールをレシーブし、ルールを無視してそのままジャンプをして相手コートに打ち込む。
「つよっ! どんだけ軽々しくジャンプしてるのよ!」
「姫、無事ですか!?」
「大丈夫だよ、葉緩ちゃん。 カッコいい!」
「えへ、えへへ。 姫に褒められると嬉しいです!」
「葉緩ちゃん大好きだよー!」
「……また目立ってるなぁ。 アタシは知らないからね」
急にいちゃつきの増えた二人に周りは引いていた。
代弁するようにクレアがぼそりと呟く。
「……」
柚姫と友人として楽しむことに夢中になっていた葉緩は、遠くから向けられる視線にまったく気づいていなかった。
***
(お水、お水~)
授業の一環として行われていた試合を終え、休憩のためにペットボトルをもって体育館裏へとやってくる。
満杯だった水の半分を喉を鳴らし、ごくごくと飲んで水分補給をしていた。
「はぁ、癒されたー」
「葉緩」
「も、望月くん!」
どこでもひょっこり現れる葵斗。
葉緩に振り向いてもらうために葵斗はなりふり構わず行動していた。
とは言え、気まぐれな性格をしているため授業をさぼってはふらりふらりである。
ボールが床をたたく音だけが聞こえる体育館裏で、葉緩は指をいじり上目づかいに葵斗を見る。
昨日のことを消化させようと、勇気を振り絞り向き合うことにした。
「あの、昨日は……私、意識飛ばしちゃったみたいで……」
「大丈夫。白夜さんが連れて帰ってたから」
「……? 白夜が見えるの?」
「あれは葉緩の匂いが移ってるから。とてもいい匂いだ」
その発言にかぁっと顔を赤らめる。
「その匂いとやら、なんのことを。私は匂い消しをしているのでわかるとは思えないのですが」
「葉緩の匂いなら絶対わかる。俺は鼻がいいんだ」
疑問がどんどん溢れてくる。
忍びとして鍛えられた葉緩の匂い消しはかなり手練れたものだ。
人として違和感のないように丁寧に馴染ませた無臭。
葵斗に葉緩の匂いがわかるはずがないというのに、嗅ぎ分けられる理由が不思議であった。