「姫からいただいた私へのドーナツがああ!!」
「ま、まだあるから」
「いえ、まだ残っております! もう誰にも渡しませんので!」
やけになって欠けたドーナツを頬張る。それを見て柚姫は頬を染め、口元を指で覆った。
「……だいたーん。 間接的にマーキングしてる」
「ごちそうさまです、姫」
「よ、喜んでくれたならよかった」
「なに? ドーナツ? 美味しそうだね」
「桐哉くっ……は、は、ひゃわい!」
二人のもとに桐哉が近づいてきて、紙袋の中を覗き込む。
柚姫は激しく動揺し、裏返った声を発していた。
焦りが行動に現れ、紙袋ごと桐哉に突き出していた。
「き、桐哉くんもよかったら食べてください! 全部っ!!」
頬を両手で押さえ、自席へと駆けていき座ってしまう。
ピンと張った背中に桐哉はクスクスと笑っていた。
葉緩が首を傾げ、ちらりと桐哉を見上げる。
「姫が動揺されてますが」
「あー……うん。昨日、家まで送ったんだけど。 その時、徳山さんのお母さんに夕飯もご馳走になって」
思い出して目を細め、微笑む。
「……それだけなんだけど」
(がーん! 二人のイチャイチャ下校を見逃しただけでなく、家庭訪問まで!)
桐哉と柚姫のイチャイチャを見逃したことは忍びとしての大失態。
使命である主の子孫繫栄を見守り損ねたことに衝撃を受けていた。
「ぐぬぬ、望月 葵斗、許すまじ!」
「なんで葵斗?」
「な、なんでもございません! では、授業始まるので達者で!」
「……なにされたんだか」
葵斗の友人である桐哉は、葵斗の葉緩への気持ちを知っており面白おかしく受け取っていた。