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学校に到着したはいいものの、葉緩は教室を覗き込むように壁にはりついていた。
気配を最小限にしようともその奇怪な行動は十分目立っていた。
「教室、入りにくいです…」
「葉緩、おはよう」
「ふわぁあああああっ!?」
喉から心臓が飛び出そうなほどに叫ぶ。
赤くなるまで茹でられたタコと化した葉緩は、相変わらず気配もなく背後から抱きついてくる葵斗の腕の中でバタバタと暴れだす。
「望月くん、これはなんですか!?」
「ハグ。これすると葉緩の匂いが近くなるね」
――チュッ……チュ。
人目もはばからず、葉緩の首にキスをする。
さらさらの黒髪がくすぐってきて、葉緩は羞恥に熱を持つ。
「何をしておいでですか!?」
「もちろん、葉緩は俺のだから目印を……」
「ストップストップ! それ以上は言わなくていいですっ!」
慌てて葵斗の口元を両手で押さえつける。
だが葵斗が手のひらにまでキスをしてきた。
あまりに恥ずかしくなり、葉緩は泣きそうになる。
「うっ……何なんですかぁ……」
「ね、俺のこと“葵斗”って呼んでよ」
「ええ?」
「葉緩に呼ばれたい」
真っ直ぐ見つめてくる葵斗に困惑し、目をそらす。
遠慮のない葵斗の行動にすっかり振り回されていた。
(なんでこんな動揺ばかり……。恥ずかしいです……)
それに、とチラッと前髪の隙間から見える葵斗の瞳を見た。
(この人の目はキレイすぎる。まるで深い海のようだ)
桐哉は顔立ちも整っており、当然のように女子にモテているが、葵斗はなぜか騒がれない。
美貌のレベルでは二人とも甲乙つけがたいというのに。
(単純に顔の好みで言えば、私は主様よりも……)
「どうしたの? 葉緩」
ぐいっと顔を近づけ、葉緩の藤色の瞳を覗き込む葵斗。
葉緩は悲鳴をあげそうになりながら、葵斗の肩を突き飛ばし、教室へと入っていく。
「──もう、授業はじまりますので!」
「……かわいいな」
真っ赤になる葉緩に葵斗は笑って教室へと入る。
ご機嫌な様子で口角が緩んでいた。