「――いやです!」


精一杯の力で葵斗の肩を押し、唇を引き離す。



「……葉緩?」

「こ、こういうのは好きな方としかしたくありません! 私は一生を添い遂げる方としか……」

「なら大丈夫。俺は葉緩と添い遂げる気持ちあるから」



その言葉に煙が出そうな勢いで身体が熱く燃え上がった。

真っ直ぐな葵斗の瞳に酔いそうだ。

先ほどまで重なっていた唇に視線がいってしまう。


その色っぽい姿は葉緩にとって危険だ。

艶やかさに心臓がはちきれそうだった。



「……なんで? だってクラスメイトなだけじゃないですか」

「違うよ。 俺はずっと葉緩のことが好きだったから」

「好きって……わ、わかりません!」



突っぱねてしまう葉緩。

それに対し、葵斗は悲しそうに葉緩を見つめる。


「……わからないの?」

「え……?」

「覚えてないのは葉緩の気持ち? それとも……」



――ざわっ。


頬を撫でる風の匂いが鼻をくすぐる。

両手を広げ、草原を走り回った。

海のような瞳に映る自分の姿がうれしくて、よく……笑っていた。






(だけど私は……)


――パキッ。


「あっ……」


視界がチカチカして、意識が遠のく。

葉緩は葵斗の顔を見て、何かを思い出しかける。



(なに……でも、私は忍びとして……)


そこで葉緩は落ちる。


葵斗の腕の中で意識を失ってしまうのだった。