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「……なーんて。私が二人のイチャイチャ見逃すわけないでしょう!」



学校の昇降口で葉緩は恒例のように壁と一体化していた。

布で姿が見えず、完全に見かけはただの壁である。



(早く来ないかなー? 生徒玄関なら見落とすこともないはず)


生徒たちが下校する姿を見送りながら葉緩は来るべきときを心待ちにしていた。


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そして気づけば生徒もいなくなり、太陽も姿を隠した夜。



「……なぜ来ない」


葉緩は壁になったまま、待ちぼうけを喰らっていた。

すっかり機嫌を損ね、唇を尖らせている。



(夜になったので帰りましょうか……はああぁ……)


あからさまにがっかりして壁擬態を解除しようする。

顔をあげ、そこでようやく目の前に人が立っていることに気付いた。



(い、いつの間に人が!? ……って、望月くん?)



じっとこちらを見てる葵斗に葉緩は歯がゆい気持ちになる。

いつも壁ばかり見て、本当に壁好きなのだと考えていた。


(あー! もう、また動けない! なんでこの人気配がわからないの!?)


「……そろそろ、直接触りたいな」


葵斗の手が伸びてくる。

予想外の葵斗の行動に葉緩は身体を硬直させ、目を見開いた。


(なにを……)

「あっ……!」


壁に擬態するための布がはがれる。

姿をさらされ、動揺する間もなく葉緩の後頭部に手をまわされる。



――はむっ。


「んっ……んんん!!?」



唇が直接重なっていた。


布越しの時と違い、ぬくもりをじかに感じて生々しい。

まるで噛みつかれるようにしっかりと重なった唇に葉緩は混乱して目を回していた。