(くんくん……。たしかにいい匂い。さっき感じた匂いはこの匂いだったかぁ)


病みつきになるのもわかると、葉緩はすっかり勘違いをする。

布の匂いと思っていたのは実は葵斗の匂い。

これまで葉緩は葵斗から匂いを感じたことがなかったため、葵斗=無臭と思っていた。


この匂い、葉緩にしか感じ取れない匂いのはずであった。

しかし嗅覚に優れている葉緩は葵斗の匂いを嗅ぎ取れない。

何故、この時だけ嗅ぎ取れたのか。

布団の匂いと思っている葉緩は考えもしないのであった。


(ふあぁ……こんな匂いに包まれていてはドキドキが止まらない。クラクラするのです……)


大きくあくびをし、何度も瞼を落とす。



(あぁ、もうダメだ。ふわふわして、意識がぁ……)


眠気を感じればすぐに寝てしまう。

どこでも眠れてしまうのは葉緩の特技であった。


「……葉緩? 寝ちゃったの?」


水滴をはじいて葵斗が目を開く。

布団を捲り、スヤスヤ眠る葉緩を見下ろす。


「……かわいい。俺の番(つがい)。匂いですぐわかった」



ーーチュッ。


綻ぶように笑みを浮かべ、葉緩の額に唇を落とす。

艶やかな黒髪を撫で、親指で頬を撫でる。


「でもなんで葉緩は気づいてないのかな? ……まぁいいか」


葵斗が嗅いでいたのは、葵斗だけが嗅ぎ取れる葉緩の匂いだ。

互いに感じ取れる匂いのはずなのに、葉緩はそれに気づいていない。

不思議でならなかった。

だがそれも葵斗には些細な事。

葉緩がいれば良いとし、深く考えずに葉緩を抱きしめる。



「大好きだ、葉緩」


ーーチゥ、チュッ……。


「んんっ……!」


「……おやすみ」


布越しではなく、唇が重なっていたことを葉緩は知らない。