(この方はキス魔なのですか!? 擬態してるとはいえ、される側の身にもなってくださいよ!)



悪態をつこうと顔をあげて睨みつけるも、スヤスヤと気持ちよさそうに眠る葵斗に邪気が抜かれてしまう。

整った顔立ちは一見クールそうだが、眠る姿はどことなくあどけない。

攻撃する気持ちを押さえつけられ、妙に悔しくなった。



(ぐぬぬ……突発的なことに対応出来るよう訓練していても、こればかりは対策してないのです!)


性に奔放だった昔と違い、今の時代は忍びといえど清廉潔白な生き方をする。

四ツ井家もそれに類なく、くノ一の色仕掛けはリスク高いと禁じていた。

知識はあれど、葉緩は初心である。

しかし知識があると踏ん反り、初心の自覚がなかった。


(私は早く主様と姫のイチャイチャが見たい……って! 望月くん、いつまでこうしているつもりですか!?)


本当に寝てしまったのだろうか。

あまりに気持ちよさそうで動くことに罪悪感を覚える。

そのまま葵斗に抱きしめられたまま、葉緩はため息をつく。



(望月くんは布が好きなのかな? 擬態用の布、父上に頼んで替えてもらった方がいいだろうか)


ただただ鈍い。

これだけ好意を向けられながら葉緩は葵斗を変人と認識していた。

壁にキス、今回は布団にキス。

共通するのは布。

つまり葵斗は無類の布好きなのかもしれない。


布とはそんなに良い匂いがするものだろうか。

興味本位で嗅いでみると、意外と良い香りに気付いた。