「この匂い……」


(およ? なんか上に乗ってきた?)


葉緩が隠れるベッドが軋む。

どうやら葵斗がベッドに乗ってきたようだ。

聴覚に意識を集中させ、葵斗の動向を探る。


(ふわぁ!? 布団の上からまさぐられてる!? でも顔を出したらバレてしまいます!)


もぞもぞと布団越しに葵斗の手が葉緩に触れる。

やがて落ち着き先を見つけたのか、葉緩の身体を抱き寄せる。

心臓の音がうるさくてその先の葵斗の行動が読めなかった。


(熟睡したふり熟睡したふり……)


ーーギュウゥ。


「癒されるなぁ。この学校に来てよかった」


ふわぁとあくびをして、涙で潤んだ目を閉じる。

布団越しに葉緩の匂いを嗅ぎ、頬を染めた。



「……今日も、よく眠れそう」



ーーチュッ、チュク。



視界が見えず、身動きも取れない。

何もわからない葉緩は葵斗の行動に振り回される。

この薄っぺらい布団越しに唇に触れるものは何なのだろうか。

しかもやたらと長い。

布団の中にいると熱がこもり、息苦しかった。


やがて唇が離れ、葵斗の身体から力が抜けていく。

小さな寝息が聞こえてきて、ようやく葉緩は布団から顔を出した。


長いまつ毛に水滴がついている。

玉のように白く輝く肌の滑らかさに手を伸ばしてしまいそうになる。

だが我に返り、手を引っ込めて紅潮した顔を布団にうずめた。