「男女の愛の、深く睦まじい例えですよね?」
葉緩の言葉に白夜が頷く。
「比翼は、雌雄それぞれ目と翼が一つずつで、常に一体となって飛ぶという想像上の鳥のことだ。連理とは、まさに連理の枝のこと。あの番の木はな、実は二本の木がくっついて一本に見えているんだ。これがどういうことか、わかるか?」
「……白夜にも、結ばれたい想いがあると?」
金色の瞳に慈愛が宿る。
あまりにいとおしい色に、涙が溢れそうになる。
「葉緩の想いが葵斗に結びついたからだ。私もな、ともにありたいのだ。……葵斗の枝に触れたいんだ」
「そう言われると少し照れるな」
「バカを言うな。お前ではなく、枝のことを言ってるんだ」
白夜が葵斗を叩くと、葵斗は笑って葉緩を抱く腕を解く。
たまらず葉緩は白夜の胸に飛び込み、泣き出した。
それをそっと抱きしめ返し、想いを馳せた。
「な、葉緩。私はお前と過ごしてとても楽しかったぞ。地に根付き、伸びることしか出来なかった私が海を見たんだ」
波の音が聞こえた。
白夜が生きた時間、耳にした音が葉緩の中に溶け込んでいく。
「お前と飛び回った世界は、案外悪くなかった。地を這うだけが人生じゃない。風となれた。飛ぶことが出来たんだ」
歯を見せてニッと笑う姿は晴れやかだった。
「役得と言ったところだろう。お前が諦めなかったこと。子の幸せを願い、未来を選んだことで再び葵斗と巡り逢ったんだ」
「白夜っ!!」
声が震えようが、葉緩は名を呼ぶことを選ぶ。
「わがままばかりでごめんなさい! 子どもに……子どもにまで悲しい想いをさせた!」
それに頷く。
髪を撫でる手はあたたかかった。
「それでも夫婦になる夢を忘れられなかった! そばに……そばにいてくれてありがとう!」
「……葉名の子はな。お前と、桐人と柚に大切にされて育った。血を繋ぐとは、そういうことだ。悲しい想いは未来を作らぬ」
だが、と言葉が続く。
「心とは難しい。連理の枝とは本当に必要だったのか。これからのお前たちの人生を通じて、私たちに教えてくれ。……な、葉緩? 我が半身よ」
今度は葉緩が頷き、目を閉じる。
「白夜、大好き」
「……あぁ、私も、大好きだよ」
世界が白く輝き、まばゆい光を見た。
次に目を開いたとき、草花の匂いがそよそよと風に揺れる広い大地であった。