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「やだ……やだよぉ。 白夜がいなくなるなんて、そんなのやだよぉ!」

「……」



涙が溢れ出て、とまらない。


脆く壊れそうな葉緩を支えていたのは白夜であった。

楽観的であれ。

大切な人を守れるよう強くあれ。

その指針は抱いたところで、一人で叶えられるほど完成されていない。

時を超えた想いさえ、打ち砕いてしまうほどに千切れるのが心だからだ。



「ずっと、ずっと一緒だったから。白夜がいなかったら私……私はっ──!!」



――笑えていただろうか?




「うあああああん!! うああああああ!!!!」

「……わかった。それが葉緩の気持ちなんだね」


――トクン、トクン。



まるで泣きじゃくる葉緩を癒すような音だ。

その音に目を閉じ、耳を傾ける。



(心臓の音、少し早い。懐かしい。葉名はこの腕に抱かれるのが好きだった)




「……私は欲張りです。だけどこぼれ落ちていくものばかり」



葉名は泣き虫だった。

それに呼応するかのように葉緩もまた泣いていた。



「ダメだなぁ。葵斗くんといると、弱くなった気がします」

「一人で抱えなくていいから。 一緒に抱えるのが夫婦でしょ?」



葵斗の言葉に葉緩は唇をキュッと結ぶ。



「……次置いていったら本気で怒りますから」

「じゃあ、嫌われないようにがんばらないとね」

「あ、葵斗くん……」



ふわっとした微笑みを向けられ、心臓が飛び跳ねる。

葉緩の本能が心から嬉しい悲鳴を上げていた。



(どうしよう、すごく好きーっ!!)



「ヨダレが垂れてるぞ、葉緩」

「びゃ、白夜!?」



そんな葉緩に間を詰めずにありのままを口にする白夜が現れる。

ベッドに腰掛け、惜しみなく長い足を組んでいる。

葉緩はワタワタと慌てだし、葵斗の胸を押す。



「いつから見ていたのです!?」

「葉緩の告白から、かな?」

「声かけてくださいよっ!!」

「ははっ、葵斗は気づいてたぞ」

「匂いでわかりますから」



(こんのぅ……人が素直になればこいつらは……)



ぐっと拳を握りしめ、長く息を吐き、耐える。

顔をあげると白夜の金色の瞳に葉緩の姿が映り、焦げ付く想いを抱いた。