「今世はほどほどにする。あと、無責任にはしない」



握る手が汗ばんでいる。

触れた箇所から葵斗の緊張が伝わってくる。


これは緊張だけでなく、蒼依が抱いた後悔も混じっていた。

自分が死んでしまい、葉名と子どもに苦労をかけた。

その罪悪感と、匂いの誘惑に板挟みといったところだろう。




「葉緩の気持ちが固まるまでちゃんと待つ。今度こそ、一緒に頑張りたいから」

「葵斗くん……」



あの時、蒼依は死を考えていなかった。

葉名との未来には障害が多く、ただ若かった。

里の価値観も凝り固まっていたため、余計に難しかっただろう。

真面目さゆえの苦悩は大きかったかもしれない。

お互いを縛るものがなくなったので、焦らずに将来を見つめていきたい。

葉緩はふわりと微笑み、葵斗の手を握り返すのであった。





その後、とたんに葵斗がふくれっ面になる。

目を丸くすると、葵斗が年相応の男の子と化す。



「というか、桐哉ズルいよね。柚ちゃんもいて、めっちゃパパしてたんじゃん」



んん?とおかしなことに焦点が当てられ、首をかしげる。


桐哉に柚、ということは桐人のことを言っているのだろうが、パパとなると思い浮かぶのは葉名の子であった。

父親のいない葉名の子は、実質桐人が父親代わりとなり育ったようなものだ。

葵斗の視点で考えると、両手に花、かわいい子供に囲まれウハウハということだろう。


ぶすっと拗ねる葵斗がおかしくなり、葉緩はクスクスと笑い出した。



「ヤキモチですか? 妬くところがおかしいですよ?」

「別にいいけど……。葉名たちが頑張ってくれたから葉緩がここにいるんだし。今度こそ俺が大事にしないと」



ふてくされたまま、葵斗は立ち上がり葉緩の手から頬へと手を移す。

そして葉緩の額にチュっと唇をおとした。