私が驚いて口をパクパクさせていると

「何で知ってんだって顔だな?
さっき依子が独りで袋下げて帰ってるとき
誕生日なのに独りで寂しいって呟いてたから。」

「うそっ!?」

心の声が漏れてた!?

依子は恥ずかしさでゆで蛸のように顔を
真っ赤にした。

「ハハッ、うそだよ──カレンダーに書いてある」

そう言って大地はケタケタとお腹を抱えて笑いだした。

私はハッと壁に掛けてあるカレンダーに
目をやった。
24日の欄には花丸で“依子30歳birthday”と自分で記入していたのだった。

「だ、騙したわね!!」

まだケタケタと笑い転げる大地を
ポコポコとグーで叩く。

「でも、うそって驚いてたってことは
寂しいって思ってたってことだろ?」

「う、うるさ~い!!
年上をからかわないで」

私はひとしきり叩いたあと、
恥ずかしくてビールをグビッとあおった。

「俺のお陰で寂しくなくなって
良かったじゃん」

「全然嬉しくありません」

「年を取ると可愛い言葉を言えなくなるのかな?」

「元々、こういう性格です」

私はギロリと睨みつけるが、ほろ酔い加減の大地は楽しそうだ。
これ以上、年下にバカにされるとマジで凹みそうだから話題をかえよう。

「大地は仕事何してるの?」

「俺?今年から税理士事務所で働き始めた。」

そう言ってスーツの内ポケットから名刺を取り出すと私の前に一枚差し出した。

私はどうも...と名刺を受け取る。

「へぇー、税理士事務所ってすごいじゃん。
お給料だっていいだろうに何でこのぼろアパートなの?」

「大学の奨学金払うのに節約。
まあ大学時代に家庭教師のバイトでちょこちょこ返済してたからこの冬のボーナスで完済できるけど。
そしたらもうちょっと良いとこに引っ越すかな」

良いとこねぇ...
給料の良いやつは羨ましい。

私は「ふ~ん」と言って名刺をテーブルの端に置く。
「もしかして寂しくなった?」とニヤニヤと摘まみのサキイカを咥える大地。
私は「全く」と興味ないと言うようにケーキの苺をフォークで刺した。