「缶ビール運んでやったんだから、
見返りがあってもいいだろ?」

「それはあなたがぶつかってきたせいで
ビニール袋が破れたんでしょうがー」

「じゃあ、ここで寝るから」

そう言って男はソファーにねっころがると
目をつぶった。

「わぁー!分かったわよ。
お駄賃にビール一本上げるから、それもって帰って!!」
私は大事なビールちゃんを一本寝そべる彼の手に乗せた。

彼はすくっとソファーから体を起こすと
「サンキュー」と言ってその場でカチッとビールの蓋を開けてゴクリと飲み始めた。

「帰って飲んでよ!
ていうか、私の服を踏まないで!」

私は男のお尻の下にぺちゃんこになった服を掴んで引っこ抜いた。

「どうせ、寂しく独りで飲むんだから、
俺がおばさんの話し相手になってあげるよ。」

そう言って、にこりと微笑むと
お摘まみをくれと
指でクイクイとおねだりした。

年下だと思って玄関に上げた
私がバカだった。
こいつはとんでもなく失礼な上に
図々しいようだ。
きっとこのまま大人しく帰ることはないだろう。

私は観念して買ってきたお菓子やお摘まみを
並べていく。
そして、ビニール袋の一番下に入れてある
大事なケーキは気づかれないように
さっと後ろに隠した。

しかし、やつはそれを見逃さない。

「おばさん、ケーキが入ってるのは分かってんだ。しかも二個入りのやつだよね?
夜中に2つも食べたらおばさんの代謝では消費できないよ。一個食べてあげるから出しなさい」

「さっきからおばさん、おばさん失礼すぎるのよ!私は藍田依子ってちゃんとした名前があるの!」

私は怒りながらも既にバレてしまった
ショートケーキのパックをローテーブルの上に置いた。

「じゃあ依子ね。
依子、お皿とフォーク持ってきて」

「年上を呼び捨てにするな!
さん付けしなさい(怒)
あんた、絶対末っ子でしょ!」

私は悪態を付きながらも、言われた通り
お皿とフォークを取りに立ち上がってしまうのは3人兄弟の長女の性だ。

「ご名答!
そういう依子もあんたとか失礼だとおもうんだけど。
俺は宮城大地(みやぎだいち)っていう名前がある」

「はいはい、大地ね。ほら食べるわよ」

私は適当流しながらお皿とフォークを並べるとお互いの皿の上にケーキを置いた。

そして、私は缶ビールのタブを開けると「じゃあ大地、メリークリスマス」と
缶を上げて見せた。

あまり乗り気でないテンションの私に
大地はフッと微笑むと
「メリークリスマス♪
それとハッピーバースデー♪」
と言って缶を上げてみせた。

えっ....?

今、ハッピーバースデーって言った.?