そして、彼女の話は
今流行りの恋愛映画やドラマの話題で
正直、俺があまり興味がない
恋愛系の類いのものだった。


一生懸命説明してくれて申し訳ないけど
話が全然耳に入らない。

しかし、それを悟られないように
彼女の話に『うんうん』と
いかにも興味有りげに相槌を打つのだ。

そして、ようやくコースを食べ終わった頃には俺は終始張り付けていた笑顔のせいで
表情筋が悲鳴を上げていた。

お店の会計の時も財布を出して
払おうとする彼女を制御する。
女性としては気遣いが出来て
良いのだろうけど俺としてはこのやり取りが
面倒だったりするのだ。

「ご馳走さまでした。今日はご一緒に食事が出来て楽しかったです」

笑顔でお礼を言う彼女は
やはり可愛い。
しかし、俺はまだお腹も満たされてないし
愛想笑いにも疲れて早く帰りたかった。

「俺も色々話せて楽しかったよ。
今日は遅いし送るよ」

しかし、俺の口は思ってもない嘘を
平然語り出す。
俺の送るという言葉に少し表情が曇った彼女に気付かないふりをしてタクシーを呼ぶためスマホを取り出す。

俺がスマホを操作していると
俺のスーツの裾を彼女の白い手が
掴んでクイクイと引っ張った。