「そういえば、安斉さんの税理士事務所って名前何でしたっけ?」

私はハッと今さら不躾な質問だと
気付いて「すみません」と呟いた。
経理の仕事がノータッチの私は
安斉さんとはあまり仕事上関わることが
ないため、たまに挨拶や軽い世間話をする程度なのだ。

「ハハッ。謝らなくても大丈夫ですよ。
こづかた税理士事務所です。
私のことも少しは興味持ってくれましたか?」

茶化すように頬笑む安斉さんに私は「そういうわけでは...」とフルフルと顔を横にすると
「それは残念...」と安斉さんは笑っている。

きっとこれはリップサービスだろうと
私は真に受けないように心に蓋をする。

そして、数秒前に言った安斉さんの言葉を思い出す。

こづかた税理士事務所...

大地の名刺に書かれていた会社の名前だった。世の中は狭いなものだ。

「じゃあ、宮城大地って知ってますよね?」

「えっ?宮城は僕の会社の後輩だけど...
依子さん、宮城と知り合い?」


「いえ、知り合いと言うほどのことでもないのですが、たまたま彼が隣に住んでいて
たまたま仕事の話をしただけなんですよ」

私はたまたまを強調する。

「ビックリしました!もしかしたらお付き合いしてるのかと思いました」

「まさか!
あの人、初対面で何て言ったと思います?
おばさんですよ?
まあ、おばさんですけども...
お付き合いなんて天地がひっくり返っても
ありえません!」

私は憤慨した顔で断言する。

「それなら、良かった...」

「えっ...?」

安斉さんがボソッと呟いた声が聞き取れず聞き返す。

「いえ...
でも、宮城のやつ、女性に向かってオバサンだなんて失礼にも程があるな。
戻ったらそこら辺もちゃんと指導しておくので安心してください!」

「きつ~く、宜しくお願いします」
と私が冗談を交えて腕を組みながら怒ったように頷く。

私の様子に「任せて」と嬉しそうな安斉さん。

それじゃあ、と去ろうとする安斉さんは「あっ!」と思い出したように引き返してきた。