少し部屋で休んだら体調が良くなった。
外の炊事場で、小学生組や華たちが人参、玉ねぎ、じゃがいもの皮を剥いて、美優と奈々たちは飯ごうでご飯を炊く準備をする。
外で作るご飯なんて、何だか新鮮で楽しい!
航也や翔太、牧田先生、ボランティアの男性陣は離れた所でキャンプファイヤーの準備をしている。
「美優ちゃん、一緒に来れて良かったね!」
奈々が話し掛ける。
「うん、私も奈々ちゃんと来れて嬉しい!明日のハイキング行く?」
「うん、私の主治医は牧田先生なんだけど、体調落ち着いてたら良いって。美優ちゃんは?」
「そっか。私はみんなと同じ距離はダメだけど、少しなら歩いてみようか。まだ主治医の許可が出るか分からないけど(笑)」
「一緒に行けるといいね!」
奈々ちゃんとそんな会話をしながら、ご飯を洗って準備を進める。
小学生組も大人と一緒に野菜を切ったり、楽しそう。
カレーを煮込んでる間に、キャンプファイヤーの準備を終えた男性陣も合流した。
航也、牧田先生、看護師さんは、子供達1人1人を回り、体調を確認している。
航也が美優の所に来た。
「美優、体調は?」
「うん、大丈夫」
そう聞きながら、おでこに手をやり、脈を測る。
「脈ちょっと早いけど、大丈夫か?」
「ん?何も感じないよ。大丈夫」
「そっか」
それから出来上がったカレーを外のレジャーシートの上でみんなで食べる。
翔太は子供達の相手をしたり、相変わらず忙しそう(笑)
美優の両脇に華と奈々ちゃんが座る。
同世代の高校生3人はすぐに意気投合し、楽しく会話をしながら食べ進める。
美優と奈々は少なめに盛ったカレーを食べるが、奈々ちゃんはあんまり食欲ないみたい…
「奈々ちゃん大丈夫?」
華が心配して声を掛ける。
抗がん剤治療が終了してもすぐには食欲なんて戻らないよね…
「うん、大丈夫。みんなで食べると美味しいよね…」
奈々ちゃんは気丈に振る舞っているが、顔色があんまり良くない…
「奈々ちゃん無理しなくていいよ?」
美優が声を掛けると、観念したように頷き、スプーンを置く。
「気分悪かったら先生呼ぶ?」
「大丈夫。ありがとう」
みんながいる目の前で先生を呼ばれることが嫌なことは美優が十分わかっている。
でも美優は顔色が悪い奈々ちゃんのことは心配…
気が引けたが、カレーを食べ終わった後、美優はこっそり航也に声を掛ける。
「航也?」
「ん?どうした?苦しい?」
航也は慌てて聞く。
「いや、私じゃなくてね、奈々ちゃんが……」
顔色が悪くて食欲がないことを伝える。
航也が牧田先生に伝えてくれることになった。
カレーが食べ終わり、みんなが片付けをしていた時、牧田先生が奈々ちゃんを呼びに来た。
「奈々ちゃん、ちょっとこっちおいで。顔色悪い感じするけど大丈夫?」
「うん…」
「どした?」
「うぅん…」
「ちょっとそこのベンチに座ろうか」
牧田先生の言葉に奈々は素直に従う。
「気持ち悪くない?腹痛は?ちょっとお腹押すよ、ここは痛くない?ここは?」
牧田先生が次々に診察を進めていく。
「うん、お腹は大丈夫だね。少し熱あるかな…看護師さん、体温計もらってもいい?」
「はい」
看護師が体温計を出して測る。
ピピピッ
「37.2か…微熱だね。寒くない?」
「大丈夫です」
「そっか。もうすぐキャンプファイヤーだから、終わったら部屋に戻って休もうね」
奈々ちゃんはみんなとキャンプファイヤーに参加できることになった。
奈々ちゃんには念の為看護師が付き添ってくれることになった。
それから片付けが終わり、辺りは薄暗くなり、キャンプファイヤーが始まった。
キャンプファイヤーが始まり、参加者は火の周りに集まる。
美優は煙を吸うと良くないため煙が来ない離れたベンチに座り、みんなを眺める。
キャッ、キャッとはしゃぐ子供達の声が聞こえる。
付き添ってくれている看護師さんが声を掛ける。
「美優ちゃん、カレー美味しかったね。体調回復して良かったね。今は体調どう?」
「はい、大丈夫です」
そんな会話をしていると、航也と看護師さんが交代する。
「ありがとう。俺が代わるよ」
「はい、お願いします。美優ちゃんまたね」
看護師さんはキャンプファイヤーの集団に向かう。
「美優大丈夫か?体調は変わりない?」
そう言いながら航也は自分の上着を美優の肩に掛けてくれる。
「うん。ありがとう」
「外の環境にまだ体が慣れてないから無理するなよ」
「うん。でも今日ここに来れて本当に良かった。発作が出たりするのはつらいけど、みんなそれぞれ病気と闘ってるんだって思ったら、自分も頑張らなきゃって思えたし、私は華や翔太や航也が側にいてくれて幸せだなって…」
「そうか、美優がそう思ってくれて嬉しいよ」
そう言うと頭をポンポンしてくれる。
みんなから離れて2人きり。
何か特別な会話をするわけではないけれど、やっぱり航也の側が1番落ち着く。
外はすっかり暗くなっている。
2人の時間をしばらく過ごしていると、昼間に会った医学生のが走り寄ってきた。
「鳴海先生!さっきあっちで転んで怪我した子がいて、鳴海先生に診て欲しいと言ってます」
「わかった、君、美優の側に付いていてもらえる?」
「わかりました」
そう言って航也は医学生が指さした方向に走っていく。
昼間のこともあり、美優はこの人のことがちょっぴり苦手…
よりによってなんでこの人が航也を呼びに来るかな…苦笑
航也と交代し、医学生は美優の隣に座る。
「美優ちゃん、1人だけみんなのいるキャンプファイヤーから離れた所にいて、つまらないでしょ?」
(そんなのわざわざ言う必要ないでしょ…)
「ううん、ここで見ているだけでも十分です」
「そう?俺さ、良いもの持ってきてるんだ!すぐそこのコテージにあるから一緒に来こう?」
ボランティアの人たちはコテージに泊まるらしい。
華と美優は宿泊施設の部屋に泊まる予定だから、翔太の計らいで一緒の部屋にしてくれたんだと思った。
美優は強引な医学生に断る理由も見つからず、キャンプファイヤーをしているみんなとは反対方向に歩いていく。
医学生が泊まるコテージに到着する。
「ちょっと待ってて、今持ってくるから」
美優が外で待っていると、手にライター、ろうそく、手持ち花火を持って出てきた。
「これ、一緒にやらない?」
「花火?あっ、でも…みんなの所に…」
「みんなはキャンプファイヤー楽しんでるよ。美優ちゃんも少しくらい楽しまなきゃ!」
美優の言うことをよそに準備を進める。
手持ち花火をあまりしたことない美優は従うしかない。
「ここのろうそくの火使って。はい、花火持って」
「あっ、うん…」
美優は言われるがまま、花火の先端を火に近付ける。
しばらくすると、シュー!と音を立てて火花が出始める。
暗い中に花火の明かりが美優の顔を照らす。
「きれい!」
花火の光につい言葉が漏れる。
「いいでしょ?これくらいしないとせっかく来たんだしさ」
美優が花火を見つめていると医学生が話し始める。
「昼間の話だけどさ…」
「ん?」
「俺…美優ちゃんのこと好きなんだよね…初めてボランティアに来た時に可愛いなって思ってさ。もし良かったら俺と付き合ってくれない?」
美優は突然のことにびっくりして固まる。
「聞いてる?」
「あっ、うん…うれしいけど、私ね、彼氏いるの」
「あぁ、そんなんだ…」
2人は沈黙になる。
気まずくて2人は次から次へと花火に火を付けていく。
「彼氏とは長いの?」
「まだ半年くらいかな」
「そっか…なんか変な空気にさせてごめん」
「うぅん、こっちこそ、ごめんなさい。花火ありがとう」
なんか気まずい雰囲気。
とりあえず花火のお礼を言っておこう。
「花火終わったら戻ろうか」
「うん」
気まずい中、じっとしゃがんで花火をしていると、急に風向きが変わって、美優の方に煙が流れて来た。
煙から逃げる暇もなく、美優は煙を思いきり吸い込んでしまった。
ツンとする火薬のにおい…
その瞬間、気管支がギュッと締め付けられる感覚がして、同時に「ゴホッ、ゴホッ」と咳が出る。
「美優ちゃん大丈夫?」
「うん、煙でムセただけ。だいじょうぶ…ハァ、ハァ、ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ…」
徐々に苦しくなるいつもの発作とは違って、一気に苦しさが襲い喉と胸を締め付けられる。
美優はそのまま花火を手放し、膝をついてうずくまる…
「ハッ、ハッ、ハッ、ゴホッ、ゴホッ、ハッ、ハァ、ハァ…こう…や…」
意識を失わないように呼吸をするのに必死。
「美優ちゃん!美優ちゃん!しっかり!!今人呼んでくるから!」
慌てた医学生は、どこかに走って行ってしまった…
〜その頃〜
キャンプファイヤーも終盤に差し掛かり、怪我をした小学生の手当を終えた航也が美優のいる場所に戻ってきた。
「あれ?あいつどこ行ったんだ?トイレか?」
航也がしばらく待っても美優は戻って来ない。
ボランティアスタッフと一緒にいる華に声を掛ける。
「華?美優知らない?」
「美優?こっちに来てないよ」
「そっか…あそこのベンチに座ってたはずなんだけど…ありがと、探してみるわ」
「私も探すよ」
翔太にも声を掛ける。
「翔太!美優見なかった?」
「おぅ、航也。いや見てないよ、いないの?」
「あぁ、どこ行ったんだか…さっき、ボランティアの男の子に美優のこと頼んでたんだけど」
「その人もしばらく見てないよ。2人でどこ行ったんだろ?まさか迷った?」
華が言う。確かに外は真っ暗。
「だけど、宿泊施設の明かりも見える位置だし、それはないだろ」
翔太が言う。
それから、子供達を宿泊施設に戻すスタッフと、美優たちを探すスタッフに分かれて動くことになり、美優を探しに行こうとしたその時、どこからか声が聞こえた。
「鳴海せんせー」
暗闇から誰かが走ってくる。
「鳴海先生!早く来てください!ハァ、ハァ、美優ちゃんが!」
さっきの医学生が血相を欠いて走って来た。
「は?どこ行ってたんだよ!美優は?」
「こっちです!!花火してたら…」
「は?」
花火という言葉に航也と看護師は驚いて顔を見合わせる。
「お前、花火って…」
「すみません、俺…」
「とりあえず事情は後で聞く。美優はどこ?」
「こっちです!」
航也、牧田先生、看護師、華、ボランティアは急いで美優の元に向かう。
コテージが建つ場所に行くと、美優が倒れているのが目に入った。
「おいっ!美優!美優!わかるか?おい!」
「ハァ、ハァ、ハァ、ゴホッ、ゴホッ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ゴホッ、ゴホッ」
「美優、手握って!」
荒い息遣いをするのがやっとで返事が出来る状態じゃない。
呼び掛けに反応はなく、手も握らない…
美優の周りには消えた手持ち花火が数本落ちている。
「くそ!急いで処置室運ぶよ!準備急いで!」
航也は美優を抱いて急いで処置室に走る。
「美優?美優?しっかり!もう大丈夫だよ!」
華も必死に呼び掛ける。
美優は力なく、だらんとしている。
処置室に運ばれた美優の状態は最悪で、強い薬を投与し発作を抑える。酸素マスクで投与できる限界量まで酸素濃度を上げる。
これでも改善しなければ挿管も考えないと…病院ではない所でこんなことが起きるなんて、航也も完全に想定外だった…
美優のヒューヒューという狭窄音が聴診器で聞かなくても聞こえてくる。
「鳴海先生、SpO294%です」
「点滴の側管から発作止め追加してくれる?これ以上低酸素続くとマズイな…」
「すぐ入れます。美優ちゃん薬入るよー」
牧田先生と看護師が航也の指示を受けて動き回っている。
「美優?わかる?目開けて?」
反応は相変わらず悪い。
しばらく様子を見ていたが、幸い挿管せずに落ち着いてきた。
しかし、かなり大きな発作を起こしたせいで、美優は意識は朦朧としている。
「美優…なんでこんなことに…せっかく落ち着いてたのに…」
華は美優の髪を撫でながら言う。
「はぁ〜全く…」
航也もやるせない気持ちになりつぶやく。
「美優ちゃんまだ油断は出来ませんが、挿管は免れましたね…ちょっとあの医学生呼んできます。事情聞かないと…」
牧田先生は処置室を出て行った。
しばらくすると、翔太とボランティア代表者と医学生が入って来た。
代表者に促され医学生が口を開く。
「美優ちゃんのこと申し訳ありませんでした。キャンプファイヤーに参加出来ない美優ちゃんが可哀想で、花火でもして楽しませようと…」
「花火でもってお前、喘息の子に花火をさせることがどんなことかわかってるのか!
医学生だろ?そのくらいわからないのか!お前の軽はずみな行動で命の危険もあったんだぞ!」
「…」
「君のやったことが、どれほど危険なことだったかわかる?
美優ちゃん、来る時もバスの中で発作起こしたの君も知ってるよね?喘息の子はこうした環境に来るだけでも注意が必要なんだよ。それを花火って…」
牧田先生も尋ねる。
「はい…勝手に美優ちゃんを連れ出し、危険な目に合わせてしまいました。よく考えもせず、軽はずみな行動でした…すみません」
「私からも何てお詫びしたら良いか…私の管理不足が招いた結果です、申し訳ございません」
ボランティアの代表者と医学生が頭を下げる。
「この課外授業は遊びじゃないんだ。俺ら医療者は病気を抱える子供達が安全に安楽に過ごせるように考えて行動しなくてはいけない。子供達と一緒に楽しく過ごしているように見えても、俺等や看護師たちはいつも子供達の体調に気を配り、異変を見逃さないように目を光らせてる。
一瞬たりとも気を抜いてはだめなんだよ。気の緩みが事故やトラブルを招くから。
今回、君の勝手な可哀想という感情だけで行動したことで、美優を危険に晒したことは事実だ。
長期入院しているあの子たちが、外の環境、ましてや野外での活動をするんだ。予想外の症状が出たり、体調を崩したりするのは想定しながら行動しないと。わかるか?
君はまだ医学生だから、これから勉強を積み重ねていかないといけないけど、そういった部分を忘れてはいけないよ。いいね?」
最初は厳しく怒った航也だったが、医学生の未来を考えて、しっかり諭していく。
医学生の目から涙がこぼれる。
「後は俺と牧田先生で何とかするから、君は子供達と一緒にいてあげて。子供達に何かあればすぐ知らせて。医者の卵の君が頼りなんだから」
航也は医学生の肩をポンと叩く。
「ありがとございます」
深くお辞儀をし、医学生とボランティアの代表者は処置室から出て行った。
「はぁ〜、ここ最近で1番肝が冷えたわ」
航也が天を仰ぎつぶやく。
「そうですね。全く…笑えない状況でしたね」
航也と牧田先生の会話から、美優がどれほど危ない状況だったのがわかる。
「2人ともお疲れ様。まさかこんなことが起きるなんてな…」
翔太もこの状況に驚いている。
すると「あっ美優?ん?吐きそう?航也!美優が…」
美優に付き添っていた華の慌てた声がする。
航也、牧田先生、翔太は慌ててカーテンを開ける。
美優は目を覚ましたが、強い薬の影響で腹痛と吐き気が出たみたい。
「美優横向きな!吐いていいぞ。目覚めたな」
すると美優は一気に戻し始めた。
「オェ…ハァ、ハァ、オェ…お腹…いたい」
「美優ゆっくりだよ、深呼吸してて。お腹痛いんだね」
「や〜、ハァ、ハァ、オェ…」
美優は状況が飲み込めず、パニックになりかけている。
「鳴海先生、吐き気止めと鎮静剤入れます?」
「そうだね、頼む」
牧田先生が手早く点滴を追加してくれた。
その後、何とか状態は落ち着き、華、翔太、牧田先生は処置室から出て行った。
「美優?落ち着いてきてるよ。びっくりしたね、もう大丈夫だよ」
航也は美優の頭を優しく撫でる。
美優はぐったりしてるが目を開けている。
「美優?花火したの?」
美優は小さく頷く。
「美優みたいな喘息の子は煙は良くないんだよ。だからキャンプファイヤーも離れた所から見せてたんだけど、まさか手持ち花火するなんて夢にも思わなかったから。ちゃんと伝えてれば良かったな…ごめんな」
「美優が…ごめんなさい…」
「大丈夫だよ。まだ苦しい?」
「さっきより…よくなった」
「そっか。今ちょうど夜の7時半。みんなお風呂に入ってる時間かな。華ちゃんが順番来たら迎えに来てくれるから、華ちゃんと一緒に入ってきな。俺は何かあったら対処出来るように待ってるから」
「心配ばかり…かけて、ごめんなさい」
「ハハ、まぁ、さっきのは流石に焦ったよ(笑)」
8時半過ぎ、華が処置室に入ってきた。美優も普通に会話出来るようになった。
「美優?大丈夫?お風呂入りに行こう?」
「うん」
「立てる?今日は私が頭洗ってあげるよ」
「フフ、ありがと」
「華、頼むな。俺外で待ってるから、何かあったら呼んで?」
「わかった。長湯しないで出てくるね」
それから無事にお風呂を済ませて、美優と華は部屋に入っていった。
「俺も翔太と風呂済ませたらまた来るから、ゆっくりしてて」
「うん、わかった」
航也と翔太が風呂から出ると既に時刻は夜9時半。
診察や点滴セットを持って、2人は美優と華の部屋に行く。
華が出迎える。
「よっ、華」
「2人ともお疲れ様」
「美優は?」
「2人の事待ってて、さっきまで起きてたんだけど寝ちゃったの」
「あぁ、いいよ。そのまま診察しちゃうから」
美優の診察をしていく。発作の後の喘鳴がまだ聞こえているが、大きな発作だったから仕方ない。
脈もまだ早く微熱もあるため、航也は点滴を刺す。
点滴を刺しても美優はぐっすり眠っていた。
「美優、疲れたんだな…」
翔太も心配する。
「点滴終わるまで1時間くらいかかるから、華も先に寝てていいぞ。俺ら点滴終わるまで隣の部屋にいるから」
航也が言う。
「ううん、私もまだ起きてられるから大丈夫」
3人は寝室の扉を閉めて、隣の部屋で座って話す。
「2人とも今日はお疲れさん。翔太も華も忙しそうにしてたな」
「航也だってバタバタの1日だったな」
「まぁな、それにしてもあの医学生に誘われて手持ち花火するとはな…参ったよ…」
「本当それな…びっくりしたわ。あの子、医学生なんだろ?」
「そうなんだけどな、花火の煙を吸って発作が起こるかもしれないって、そこまで考えれなかったんだろ」
華が口を開く。
「その医学生ね、美優の話によると、彼氏いるのかとか色々聞いてきて、美優に告白してきたみたい。付き合って欲しいって。美優が彼氏がいるって言ったら諦めたような感じだったらしいけど…」
「え?マジ?あの医学生、確か何度かボランティアに参加してて美優とも面識あったけど…」
翔太が振り返る。
「美優は可愛いし大人しいから、男が放っておかないよ。彼氏がいるってわかって諦めてくれたならいいけどさ。美優の具合も考えないで自分の思いばかりちょっと強引だよ…」
こればかりは華も怒り心頭みたい。
「処置室で俺と牧田先生とで説教しといたから、さすがにわかっただろ…」
「あっ、でも美優には言わないで。航也に心配かけたくないから言わないでって言われたんだけど、2人の耳には入れといた方がいいかなって」
「ありがとな。わかったよ」
それから点滴が終わるのを待って点滴を抜いて、航也と翔太は部屋に戻る。
美優は、さっきより喘鳴が落ち着いていてホッとする。
「じゃあ、おやすみ。夜中何かあったら俺の携帯に電話して?」
航也が華に言う。
「うん、わかった。おやすみ」
「じゃあな」
そんなこんなで課外授業の1日目が終了した。
〜課外授業2日目〜
航也は朝起きるとすぐに携帯を確認する。
華からの連絡が無くて胸をなでおろす。
時刻は6時半。
2人は身支度を整え、翔太は朝食会場の手伝いへ、航也は美優の部屋へ向かう。
ノックをすると華が出てくる。
「航也、おはよう」
「おはよう。起きてたか?」
「うん、もう少しで朝ご飯の時間だもんね。美優も起きて着替え終わったところ。夜中美優ぐっすりだったよ」
「ありがとうな」
華の頭をクシャっとする。
中に入るとベッドに座る美優がニコッと微笑む。
「美優、おはよう。良く寝れたか?」
「うん、よく寝れた!」
航也は念入りに診察をしていく。
「よし、顔色もいいな。本当に安心したよ。じゃあ、俺先に行ってるから、ゆっくり2人で食堂においで」
そして到着した順に朝食を食べる。
バイキングになっていて、自分が食べられる分だけ取れるのは嬉しい。
航也や翔太は既に食べ終わって、食堂の一角で、今日のハイキングについて医者、看護師、先生、ボランティアの代表者とミーティングをしている。
美優と華のテーブルに昨日の医学生がやってきた。
「美優ちゃん…昨日は大変な思いさせて…自分の行動のせいで…苦しい思いさせてしまってごめんなさい」
「いぇ、いいんです。私もちゃんと断らないといけなかったのに…ごめんなさい」
お互い謝り合って済ませた。
まだ1泊あるし、気まずいのは嫌だから、もうあまり考えるのはよそう…
華はこの後子供達とハイキングに行く予定。
私は航也の許可が出ればいいけど…無理だろうな…
ミーティングを終えた航也が美優の元に来る。
「美優、今日のハイキングだけどさ、みんなと行くのは厳しいと思うから、湖の周りを散策するのはどうかな?俺がハイキング終わって帰ってきてから一緒に少し散歩しよ?」
「うん。自分もみんなとは無理だなって思ってたから大丈夫。みんながハイキングから帰って来るまで休んでるね」
航也は申し訳そうに言うが、自分がハイキングに行った所で、みんなのペースには付いてはいけないし、自分のせいで1人スタッフが取られるのは申し訳ない。
美優と数名の看護師が宿泊施設に待機する形になり、奈々ちゃんやレン君を含めた小学生組もハイキングに参加できるみたいで良かった。
華、翔太、航也もハイキングに同行することになり、時間になってみんなを見送る。
大体帰ってくるのは2時間後。
美優はそれまで看護師さんたちと談笑したり、食堂の片付けや昼食に向けての準備を手伝ったり、無理のない範囲でやらせてもらう。
でもやっぱり…昨日大きな発作を起こした代償は大きく、疲れやすくなってしまった。
見兼ねた看護師さんが声を掛けてくれる。
「美優ちゃん、みんなが帰って来るまでお部屋で休んでる?
夜はビンゴ大会もあるし、夜に備えて少し休んでおいで」
美優はありがたく自分の部屋で休ませてもらう。
ベッドに入るとすぐに眠りに引き込まれていった。
「みゆ、美優?」
「航也?」
航也が心配そうに覗き込んでいる。
「うん、ただいま。ハイキングから帰って来たよ。看護師さんから疲れてたみたいで部屋で休んでるって聞いて、心配で来てみた。大丈夫か?」
「うん。少し疲れたから休んでたら、いつの間にか寝ちゃった」
「いいんだよ。寝れる時に寝てて。お昼になったけど、食堂行ける?お昼ご飯」
「うん」
ベッドから立ち上がろうとすると、一瞬視界が揺れた。
「美優っ!大丈夫か?クラクラする?」
「ちょっと…」
「ゆっくりでいいぞ。一旦ベッドに座ろう。目下げるよ。
…ちょっと貧血出てんな。昼飯食ったら鉄剤の内服しよう」
めまいが落ち着いたのを確認し、航也と食堂に行く。
昼食を食べた後、看護師さんから鉄剤をもらって飲む。
午後は自由行動。
部屋で過ごす子もいれば、アヒルのボートに乗りに行く子もいる。湖のカモにエサをやったり。
ボランティアや看護師さんは子供達に合わせて行動する。
美優は約束通り、航也と湖の周りを散歩に行く。
ゆっくりゆっくり美優のペースで歩く。
「美優?色々あったけど、どうだった?」
「うん、なんか発作ばかり起こして自分でもびっくりだったけど、きれいな景色も見れたし、子供達とも触れ合えたし、来てよかった。ありがとう」
「そうだな。明日病院に戻ったらまた治療の日々になるけどさ、たまには息抜きでこうして遠出もしてみような」
「うん!」
20分くらい歩いて宿泊施設に戻る。
航也から予防的に処置室でネブライザーを受けるように言われ、渋々受けてそのまま処置室のベッドで休むことになった。
処置室にはベッドが2台あって、美優が休んでいるとまたすぐに眠りに落ちていった。
どのくらい寝たのだろう、外は日が陰り夕方になっているのがわかった。
ボーっと天井を見つめていると華が入ってきた。
「美優?起きてた?」
「うん。みんなは?」
「翔太はビンゴ大会の準備してる(笑)航也は牧田先生達とミーティングしてるよ。小さい子たちは食堂のテレビでアニメのDVD見てるし、美優もみんなの所行く?」
「うん」
華に言われベッドから立ち上がるとやっぱり貧血が出ていて、めまいがする。
立ったは良いけど立ちくらみがして、その場に座り込む。
「美優!どうしたの?クラクラくる?」
「華…ごめん…ハァ、ハァ、休めば…大丈夫」
めまいと動悸がする。目がチカチカしてよく前が見えない。
いつの間にか華はいなくなっていた。
〜食堂〜
華はミーティングを終えた航也に声を掛ける。
「航也!美優起きたんだけど、めまいと動悸がするみたい」
「ん、わかった」
航也は急ぎ足で処置室に向かう。
「美優?大丈夫か?ちょっと症状言える?」
「めまいと…心臓がドキドキしてる…」
「わかった。ベッドに横にするよ。ちょっと血圧測らせてな」
「ん〜血圧低いな。貧血も出てるし、ちょっと疲れたんだな。心臓がドキドキしてるのは貧血になると頻脈になるからね、それでだよ。今日の夜はゆっくりしてよ。食堂行く?」
「うん、もう少し休んでる」
「わかった。夕飯の時間になったらまた来るな」
航也と華は出て行った。
〜航也と華〜
「美優…大丈夫かな?」
「昨日大きい発作が出たし、環境も変わったらな、だいぶ疲れてるわ。明日病院戻ったらちゃんと管理しないといけないけど、あんま美優に言うとな…気にして滅入るから」
「そうだね、いつも通りに接するね」
「ありがとな、華」
それから夕飯の時間になり、美優も食堂に来て食べ始める。
しかし食欲がすっかり落ちてしまい、半分食べるのがやっと。
見兼ねた看護師が声を掛ける。
「美優ちゃん、無理しなくていいわよ。大丈夫?食べたら少し横になろうか?」
美優は頷く。
夕食後、そのまま食堂でビンゴ大会が開かれる。子供達のお楽しみ行事の1つ。スタッフ全員も参加し、みんなに何かしらの景品が行き渡るようになっている。
美優は起き上がっていることも辛くなり、看護師さんに連れてきてもらい、食堂の端にあるソファに座る。
翔太がビンゴカードを配りに来てくれた。
「美優、大丈夫か?ソファに座ったままでいいよ。航也呼ぶか?」
「うぅん、大丈夫」
美優はソファに体を預けたまま、ビンゴカードの真ん中を開ける。
看護師さんが脈を測ってくれる。
「美優ちゃんちょっと脈が早い感じするけど、ドキドキするかな?」
「少しだけ…」
「ゆっくり深呼吸しようね。ビンゴ大会の途中でも具合悪くなったら言って」
「はい、私1人で大丈夫です」
看護師さんが付き添ってくれるんだけど、それも悪いし…少し1人でゆっくり座っていたい…
「そう、じゃあまた来るね」
美優の気持ちを察してくれたのか看護師さんはすんなり去ってくれた。
(はぁ、ビンゴ大会楽しみにしてたのにな…)
航也は他の子の所を回ってる。
そのうちビンゴ大会が始まり、ボランティアの人が番号を読み上げる…
最初は番号の穴を開けていたんだけど、だんだんと眠くなってきた…
気付くと部屋のベッドに寝ていた。
(あれ、ビンゴ大会…してて…)
隣のベッドには華はいない。
ゆっくり寝室を出ると華と航也がいた。
「あっ、美優起きか?ビンゴ大会の途中で寝ちゃったから連れて来たよ。こっちおいで」
航也に言われてボーッとしながら座る。
「まだボーっとしてるな。熱測らせて」
ピピピッ
「37.8か…熱出てきたな。苦しくはない?」
「うん、大丈夫」
「美優、これ美優のビンゴの景品だよ。代わりにもらってきた」
華が紙袋を1つくれる。
開けてみると、可愛いハリねずみのぬいぐるみだった。
「ありがとう。ふかふかしててかわいい!うれし…ありがと。コホッ」
「ハハ、ハリネズミか。可愛いな」
「本当だ!美優って何でそんなにぬいぐるみが似合うの(笑)」
航也と華が笑い、美優も微笑む。
それから華とお風呂に入って部屋に戻ると、翔太も来ていて、2人が雑談しながら待っていた。
「おかえり」
翔太がひょこっと顔を出す。
「翔太、お疲れ様」
「美優大丈夫か?熱あるんだって?」
「うん…みたい(笑)」
「美優やっぱり体熱い感じするから、長湯しないで出てきた」
華が伝える。
「そっか、美優こっちおいで。胸の音と熱測らせて?」
航也は聴診器で胸の音を聞いていく。
「ん、ちょっとゼイゼイしてるな」
ピピピッ
「37.8か…変わらずだな。寝る前に薬飲もう」
美優に解熱剤を飲ませる。
そのままベッドに運び寝かせると、美優はハリネズミのぬいぐるみを抱いて、すぐにスースー寝息をたてる。
(可愛いな…)
航也は微笑んで寝室を出る。
「華、美優寝たから。俺ら部屋に戻るから、何かあったら連絡して?ん?華もちょっと顔色悪くないか?」
「あぁ、確かにな」
航也の言葉に翔太も賛同する。
「えっ、あ、うん…大丈夫…」
「華、航也に診てもらいな」
「ちょっとごめんな。手首かして?熱も測ろう?」
「うん、熱はないね。脈も大丈夫だな。だけど、顔色が良くないし、華も動き回って疲れただろ?ゆっくり休みな?」
そう行って2人は部屋を出て行った。
華もボランティアとして2日間動き回って、体は正直疲れた。
華もベッドに入ってすぐに眠りについた。
翌朝、華はすっきりと目覚めた。体調はすっかり良くなっていた。
隣の美優はまだ寝ていて、汗をびっしょりかいている。
おでこに手をやると明らかに熱く、体温計を挟むと38.5。
華は航也の携帯に連絡し熱があることを伝える。
しばらくすると翔太と航也が入ってきた。
「華おはよう。華は体調は?」
「ありがとう。私は寝たらすっきり。でも美優が…」
航也と翔太はまず華の様子を確認して、美優のベッドに向かう。
「美優?起きれる?」
熱のせいで息が上がってる。
「ん…みんな…」
「美優、朝ご飯の時間だけど食堂行けそう?」
「ん…朝ご飯食べたくない…食べなくてもいい?」
力なく答える。
「わかった。翔太、バスの出発って10時だっけ?」
「うん、そう」
「まだ2時間あるな。美優?朝ご飯食べない代わりに点滴だけさせて?」
「うん…」
点滴の用意をして刺す。
「美優大丈夫か?」
翔太が航也に尋ねる。
「あぁ、だいぶ辛そう。バスの時間になるまで部屋で休ませるわ」
3人はそのまま朝食を食べて、華がバスの時間まで部屋で付き添う。
終わった点滴を抜き、美優をバスに乗せる。
状態が良くないため、隣は航也が座ることになった。
点滴をして少し状態は落ち着いたが、ぐったりしている。
「美優、病院着くまで寝てな」
美優は頷き、病院に着くまでの2時間1度も起きることはなかった。
病院に着いて、美優を抱いて病室に運ぶ。
急いで点滴、酸素投与をして様子を見ることになった。
それから体調が良くなったり悪くなったり、日によって体調に波がある状態がしばらく続いて1週間近くかけて回復した。
それから、高校3年生の2人は、本格的に受験に向けての準備が始まった。
華は院内学級の先生を目指して教育学部がある大学を受験する。
美優は保育園の先生を目指して子ども学科のある大学を受験する。
「ずっと、そばにいるよ2」
で続きを書いていきたいと思います!
また4人の物語を覗きに来てください!!