「一般論として言っただけ。私ももう七十よ?」


長年勤めていた呉服店を六十五歳で定年してからはウォーキングを日課とし、健康管理に励む毎日。孝枝は血圧が高い以外、これまで病気らしい病気はなにひとつなく、健康だけが自慢だと豪語している。

父親が亡くなってから十年以上、ずっとふたりで生活してきたため、『いつまでも一緒にいられるわけじゃない』と言われるととても寂しい。


「でも聖さんは素敵な男性よね。加賀谷医療センターの跡取り息子だし。心臓血管外科医としてかなり優秀で、彼を頼ってほかからやって来る患者もたくさんいるそうね」
「そうなんだ」
「あらやだ、七緒は知らないの?」


ツッコミを入れられてギクッとする。


「あ、うん……まだお付き合いをはじめたばかりだし、仕事の話はあまりしないから」
「まぁ、結婚を視野に入れているんだから、七緒も彼を支えられるようにしっかりやらないと」
「う、うん」


結婚を持ち出されるとヒヤヒヤしてかなわない。
聖が〝結婚を考えている女性〟として七緒を紹介してしまったため、孝枝がそう考えるのも無理はないけれど。