考えごとはしていたが、表情筋を使った自覚はまったくない。


「なかなかおもしろいものを見せてもらった」


クククと楽しげに笑う聖をムッとした表情で睨む。無意識に唇が尖っているのに気づき、彼に指摘された通りは癪だと、急いで通常モードに戻した。


「連絡するよ。七緒もなにかあったら遠慮なく電話なりメッセージなり送って」
「わかりました」
「デートの誘いもオッケー」
「作戦の相談ならするかもしれません」


おどける聖に真面目に返す。
本物の恋人ではないのだから、デートはない。


「では、失礼します。気をつけて帰ってくださいね」
「サンキュ。またな、七緒。お腹を出して寝るなよ」
「子どもじゃありませんから」


ドアを開けて降り立ち、走り去っていく聖の車を見送る。

十字路を右折し、テールランプが視界から消えたところで息を大きく吐き出した。肩から力が抜け、いきなり体が重く感じる。