――神国ディメイズ。
神の国を名乗り、王族は神の子であるとされるのがこの国であった。
公爵位は神の姻戚、その他の貴族は爵位で区分けこそされるものの、それ以外の者という認識であり、王族や公爵家に仕えるものでしかない。
平民にいたっては有象無象、上位者に尽くしてこそ喜びは得られ、使い潰されて然るべきものなのだ。
王族が真実神の系譜に連なるものであるかは誰にもわからない。それでも不思議な力を保有していることは確かで、閉ざされた国では異論を唱えるものなどいるはずもない。いたとしても、ささやかな声などどこに届くこともない。
そんな国で、身分違いの二人は出会った――。
セルシア・ヤーガ。もとの名をセルーシャという。
セレニカの母親は、銀の髪に紫の瞳の美しい女性だった。
偶然の出会い。本来ならば世界が違う、行動圏が重なることなどなかったはずの二人。
一目で心惹かれたダルスは、しかしその瞳を見て踏みとどまる。それが特別な存在である証だとは、国民の誰しもが知ることだったからだ。
一方のセルーシャもまた、感じるものはある様子ながら、ダルスの着古した衣類を身につけた姿に身分差を悟り、出会いなどなかったことにした。
ところが運命の悪戯か、偶然の邂逅を何度となく経た二人は、抵抗虚しく恋に落ちる。