セレニカの戸惑いをよそに、その日からヴァディムは当然のように彼女をそばに置くようになった。
 昼食だけではない。学年が違うために授業は異なるものの、その他の時間は彼の友人たちに混ざり行動をともにする。彼らはセレニカの自分たちとは違う言動、考え方を面白がり、ことあるごとに意見を聞きたがった。
 しかし、学内では身元不確か同然の存在である娘が王太子に侍る、その状態に不満を持つ者も多かった。

「あなた、ご自分の立場をご自覚なさいませ」

 令嬢たちから呼び出しを受けることは数え切れないほど。

「殿下には婚約者がいらっしゃること、底辺貴族だとご存知ないのかしら」
「エカテリーナ様はお優しいうえに器が大きなお方ですから、あなたのことを見逃しておられますけれど」

 直接的な危害を加えられることはなかったが、繰り返し呼び出されては小言を並べられる。孤立した状況に、精神は日に日に削られていった。
 そもそもが自分から始めたことではない。自分から近寄ったわけではなく媚びているつもりもないのに、奇異の目を向けられ、陰口を叩かれ、必要があって話しかけても無視をされる。

「俺がレニィと仲良くなりたがったせいだ」

 ヴァディムはセレニカの置かれた状況に憤った。

「わたしも上手く立ち回れなくてごめんなさい、他のみなさんと一緒でお友達なんだって言いはしたんですけど……」

 友人たちの中には女子生徒もいないではなかった。だからセレニカ一人増えたところで問題はないと仲間内では話していた。だが彼女たちも高位貴族であり、男子生徒同様に王太子の側近候補たちであった。セレニカとは立場が違う。